真実を知った時の驚きがすごい。
あらすじ
テレビ番組の人気リポーター・羽鳥亜里沙は、中学卒業を間近にした二月、冷凍睡眠装置の研究をする<未来科学研究所>を取材するために、つくば市に向かうことになった。撮影の休憩中に、ふと悪戯心から立ち入り禁止の地下五回に迷い込んだ亜里沙は、見てはいけないものを見てしまうのだが・・・・。
スリープ 乾くるみ ハルキ文庫
内容(ネタバレ)
本書のタイトルとなっている「スリープ」は冷凍睡眠のことです。
冷凍睡眠は将来のある時点で蘇生してもらうことで肉体が老いることなく未来に行くことが出来るというものです。
序盤
本書の舞台は2036年。
30年前の2006年に行方をくらましたTV番組「科学のちから」に出演していた天才美少女レポーター羽鳥亜里沙。
彼女は番組終了の2ヵ月前に突然降板し、その後TV界から姿を消してしまった。
序盤はなぜ彼女が姿を消したのかが明らかにされていく。
2006年羽鳥亜里沙は「科学のちから」の取材でつくばにある未来科学研究所を訪れる。
そこでは冷凍睡眠の研究が行われており、亜里沙はその試作機をレポートすることになった。
亜里沙はひょんなことから未来研究所は時の権力者たちの不老不死の欲望をかなえるために作られたことと、既に冷凍睡眠に入っている権力者達がいるという重要な秘密を知ってしまう。
亜里沙が秘密を知ってしまったことを知る所長の八田は、冷凍睡眠前の体のデータをスキャンするスキャナーの被写体になって欲しいと頼まれる。
亜里沙はそれを承知し被写体としてスキャンされるが、スキャンされたショックで気絶してしまい、次に目が覚めると2006年から2036年の世界にタイムスリップしていた。
中盤
2036年に目覚めた亜里沙のそばにいたのは科学のちからで亜里沙と同じく番組のレポーターを務めていた戸松。
亜里沙に想いを寄せていた戸松は2036年の世界ではノーベル賞を受賞するほどの科学者になっていた。
戸松は亜里沙が2036年にいる理由を、八田所長の罠にはまり、30年間冷凍睡眠させられていたからだと説明する。
戸松はさらに2036年の世界では法改正により冷凍睡眠をさせられている人を蘇生するのは法律違反であることを告げ、自分も亜里沙も追われる身であることを説明する。
44歳の戸松と14歳の亜里沙の二人は追手から逃げるために逃亡することになる。
戸松はあらかじめ二人の隠れ家を用意しており、そこで二人の暮らしが始まる。
亜里沙も次第に戸松に惹かれていき二人は固い絆で結ばれる。
しかしそんな幸せな日々は長くは続かず、亜里沙の体は冷凍睡眠をしていた影響でだんだんとボロボロになっていく。
捕まることを覚悟で戸松は亜里沙を病院に連れていく。
病院で極秘に治療を受けるもどんどん弱っていく亜里沙。
そこに二人を追う連中が現れて、もみ合いの末、戸松は銃で撃たれて死亡してしまう。
終盤
2006年に八田所長からスキャンをされて一時的に気絶するものすぐに目が覚める亜里沙。
亜里沙はスキャンの際のショックで一時的に気を失っていただけだった。
無事に未来科学研究所でレポートを終えた亜里沙であったが、その後スタッフとホテルにいたシーンをスクープされてしまう(実際は亜里沙が車に酔ったため一時的に駐車していただけ)。
最終的にスクープは免れたが日本に嫌気がさした亜里沙はアメリカに留学することになる。
アメリカには遅れて戸松も留学に来ており、亜里沙と戸松は一時的にいい仲になるも、その後は疎遠になってしまう。
アメリカで順調に成長していき20歳になる亜里沙。
亜里沙はひょんなことから<自然主義・生命の樹協会>という行き過ぎた科学に反対する団体の活動に参加することになる。
そこでロイという青年に出会い、二人は恋に落ちて結婚する。
1人目の子供は病死してしまうというアクシデントはありながらも2人目の子供が生まれ、亜里沙は幸せな生活を送っていた。
2036年、44歳になった亜里沙のもとにかつて「科学のちから」で同じくレポーターを務めていたまりんが現れる。
まりんは一時的にでも日本に帰ることを渋る亜里沙を説得し、日本に連れて帰る。
亜里沙が日本で連れていかれた場所はとある病院であった。
そこには衰弱した14歳の亜里沙が治療を受けていた。
14歳の亜里沙は30年間スリープさせられていたわけではなく、戸松が30年前の亜里沙のスキャンデータをもとに復元したクローンだったことが判明する。
クローンとして生まれて14歳の亜里沙はその後治療の甲斐もなく死亡してしまう。
死亡した14歳の亜里沙の亡骸は44歳の亜里沙が暮らす村に埋葬されることになった。
感想
戸松のゆがんた愛情によって生み出された亜里沙。
戸松にとっても亜里沙を生む出すだけの能力があったのは悲劇だったのかもしれません。
しかし一時的とは言え、二人での逃亡生活は幸せな部分もありました。
それゆえ何が良いのか何が悪いのかを断じることはできないのが難しいところです。
しかし、単純に自分の立場で考えると自分のクローンなどいてほしくないという人が大多数ではないかと思います。
いずれ科学が発展したらそんなクローンが作れる日が来るのかもしれませんが、そのようなとてつもない技術をどう使うかというのは人が生涯をかけて考える必要がありますね。