ネタバレ感想:東京物語『奥田英郎』

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一人の少年が田舎から東京に出てきて成長する物語。何か謎があるわけではないし、ハラハラドキドキするような展開もないが、読んでいて心が温まる話。

あらすじ

1978年4月。18歳の久雄は、エリック・クラプトンもトム・ウェイツも素通りする退屈な町を飛び出し、上京する。キャンディーズ解散、ジョン・レノン殺害、幻の名古屋オリンピック、ベルリンの壁崩壊…。バブル景気に向かう時代の波にもまれ、戸惑いながらも少しずつ大人になっていく久雄。80年代の東京を舞台に、誰もが通り過ぎてきた「あの頃」を鮮やかに描きだす、まぶしい青春グラフィティ。

ネタバレ感想

ネタバレを交えつつ感想を綴ります。未読の方はご留意ください。

管理人は久雄が上京した1978年には生まれていません。なので懐かしいという気持ちよりも、この時代の背景はこんな感じだったのか、こんな風に学生は過ごしていたのかという新鮮な気持ちで楽しく読めました。

この時代に学生だった方はとても懐かしく感じられるのではないでしょうか。

さて本書は18歳の高校生久雄が名古屋から東京に出てきて、その東京での暮らしが淡々と描かれています。まさしくタイトルのとおり久雄の東京物語です。

大きく6つの章に分かれておりますが時系列はばらばらです。以下時系列順の内容です。

時系列順1(第2章)

久雄18歳。高校を卒業して浪人生として名古屋から上京した久雄。思い描いていた上京生活とのギャップに少々困惑しながらも同じ上京仲間の友達と再会したりして何とか東京でやっていく自身を持つ。

とんがったキャラの久雄。名古屋から出てきて田舎者と思われたくないという気持ちや他人との比較で自分の現在地を把握するところなどまだまだ未熟な感じが描かれています。でも根は素直。

時系列順2(第3章)

久雄19歳。浪人生活を経て東京の大学に合格した久雄。大学では演劇部に籍を置いていた。先輩菜穂子に憧れつつも、同級生の小山江里から告白されるが・・・

自分に好意を抱いている江里を心ない一言で傷つけってしまった久雄。周りのサポートもありつつ仲直りのために奮闘します。こうやって女心を学んでいくのかな。

時系列順3(第1章)

久雄21歳。父親の経営する会社が潰れたため大学を中退することになった久雄。最初に就職した会社はスーツの着用が必須であったため退職した。次に就職したのは社員数名の広告代理店。そこで久雄はキャッチコピーを考えるコピーライターの仕事を任されていた。取引先の要望や先輩からの無茶ぶり、更には過酷な業務に奮闘しながら頑張る。

21歳ながら社会人としてしっかり働いているが、感覚的にはまだ学生な感じ。

時系列順4(第4章)

久雄もうすぐ22歳。仕事にも慣れ部下を3人持つ立場になった久雄。周りが学生をやっている中、部下を使う立場になったことに優越感を感じ始めていた。部下にも強く当たり、仕事にも強く自己主張するようになった久雄だがそんな中取引先から最近の仕事ぶりは調子に乗っていると指摘される。また社長からも部下への接し方について注意を受ける。改めて初心に戻り気合を入れる久雄であった。

実力もつき部下も持ち調子に乗ってしまう。若いのにこれだけ仕事を任されたら調子に乗るのも仕方ないかもしれません。しかし取引先や社長がちゃんと久雄のことを見てくれておりアドバイスをくれます。それを真摯に受け止める久雄はやはり根は素直なんだろうな。ここで久雄は一気に成長します。

時系列順5(第5章)

久雄25歳。23歳で会社を辞めて現在はフリーのコピーライターとして生計を立てる久雄。そんなある日母親からホテルでの食事に誘われる。行ってみるとそこには母親の友人とその娘が。互いの母親同士が意気投合し強制的なお見合いが開始されたのだった。お互い乗り気でないお見合いだったが、二人とも実は結婚願望がないことで話が弾みデートは楽しい雰囲気になるが・・・

最初お見合いに乗り気でない相手に嫌々ながらもしっかり付き合う久雄は大人になりました。学生の時の江里はどうなったのかなと思いつつ、新しい出会いを応援したくなります。

時系列順6(第6章)

久雄29歳。27歳の時に知り合いのカメラマンとデザイナーと一緒に共同事務所を恵比寿に立ち上げて年々生活レベルは向上している。しかし大口の得意先である郷田のわがままに日々振り回されて、恋人の理恵子とも結婚の予定もなく、思い描いていた29歳には程遠かった。そんな中仕事仲間の一人が結婚することになったのを契機に青春は終わり新しい人生が始まっていくことを感じる久雄であった。

久雄の成長物語の最終章。怒りっぽさがなくなり一人の大人として成長しました。

まとめ

大きな謎があるわけでもなく、生き残りをかけたハラハラドキドキな展開もないが、何故か無性に先が気になる本作。

それは多分久雄に共感出来るから。超人的な主人公ではなく、時に調子にのり、時に悩む、そして成長する久雄に読者は感情移入出来るので自分の未来が気になるように久雄の未来が気になるのだ。

読後の後味も良く大人な読者が懐かしい気持ちに浸れる一冊。

 

 

 

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