型破りな父親を近くで見守る小学校6年生の上原二郎とその家族の姿を描いた長編小説。こんなに面白いとは思わなかった。
あらすじ
小学校6年生になった長男の僕の名前は二郎。父の名前は一郎。誰が聞いても変わってるという。父が会社員だったことはない。物心ついた頃からたいてい家にいる。父親とはそういうものだと思っていたら、小学生になって級友ができ、よその家はそうではないことを知った。父は昔、過激派とかいうのだったらしく、今でも騒動ばかり起こして、僕たち家族を困らせるのだが…。―2006年本屋大賞第2位にランキングした大傑作長編小説。
ネタバレ感想
こんなに面白いとは思いませんでした。
本作は過激派として活動していて現在も無茶苦茶な行動をする父一郎の視点ではなくその息子である小学校6年生の二郎の視点で描かれています。二郎の視点から描くことで一郎の姿を客観的に見ることが出来て本作の面白さに磨きがかかっています。
さて本書の気になったポイントごとに感想を綴ります。ネタバレも含むので未読の方はご注意下さい。
カツとの戦い
本作の序盤二郎は友達とともに「カツ」と呼ばれる不良中学生にお金をたかられて頭を悩ませます。小学生から見ると中学生って大人に見えて怖いんですよね。
二郎が中学生とトラブルを抱えていることを父は察しているにも関わらず、アドバイスするのはこっそり武器を持って近き襲撃しろというもの。さすが普通の大人とは一味違います。
最終的に二郎は友人の黒木と一緒にカツに屈せず対峙しやっつけることに成功します。本作のスカッとするポイント。
パイパティローマは実在するのか
上原一郎が実在する楽園と主張するパイパティローマ。本作の最後では子供3人を残して一郎とその妻さくらはパイパティローマに旅立っていきます。結局は波照間島にいたわけですが。。
作中で初めてパイパティローマという名を聞いた人もいるのではないでしょうか。実は管理人もその一人です。
ちょっと気になったのでパイパティローマと呼ばれる島が実在するのか調べてみました。
パイパティローマは別名「南波照間島」と呼ばれており実在する波照間島のさらに南にあるとされる伝説の島のようです。
伝説と書いたことからおわかりいただけるように、単なる想像上の島なのか、それとも実在する島なのか、そして実在する島であるとすればどの島のことを指すのかは現在まで明らかになっていないようです。
仮にパイパティローマを実在する島と仮定する場合、台湾やフィリピンの島という説もあるようです。
まぁ作中でも記載があった通り「伝説の島」ということでした。
上原一郎の魅力
まったく働かず一日中家にいる。そして自分が正しいと思った場合は相手が誰であろうとどこであろうと一歩も引かずに主張するし、そのためには暴力も振るう。
文章にするとはっきり言って滅茶苦茶な父親なのですが、主人公の二郎は段々と一郎の想いに共感し、この無茶苦茶な父を尊敬し始めます。
そして我々読者も二郎と同じように読み進めていくと不思議と上原一郎という人物が魅力的に思えてくるのです。
作者の奥田さんの思惑どおりというところでしょうか。
一郎の最大の魅力はそのぶれない態度と発言でしょう。無茶苦茶な一郎ですがその無茶苦茶さにブレがないのです。大人になると社会的な立場が出てくるので、自分の上司や利害関係がある相手と戦えなくなります。そんな大人は子供から見ると多分格好良くないです。もちろん大人自身もそんな自分たちが格好良くないことはわかっているのだけど割り切って対応するしかない。
しかし一郎は立場も関係なく相手を選ばず主義主張をぶちまけます。その結果敵を増やしまくるのですが、そんな表裏のない姿を読者は格好いいと思ってしまうのです。
また物語の最後で息子の二郎に「おれのようにはなるな」という発言をしており自分の生き方が大変であることは自覚しており、その大変な思いを息子にはさせたくないという親としての愛情も感じさせます。
そんなぶれない生き方をする一郎に読者は魅力を感じてしまうのでした。
まとめ
面白かったです。何度も言いますがこんなに面白いとは思いませんでした。
しがらみがある大人なら誰もが上原一郎のように男に少しは憧れる部分があると思います。
未読の方は本書を読んでスカッとしましょう。