広瀬正の小説「エロス もう一つの過去」のラストを考察

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

「マイナス・ゼロ」で有名な広瀬さんのパラレル・ワールド小説です。恐らく「エロス」というタイトルは誤解を与えると思うのですが中身はいたって真面目です。

面白かったのですが、最初読んだとき最後のオチが理解できていなかったので改めて管理人としての考えをまとめてみたいと思います。

あらすじ
芸能界に確固たる地位を築いた大歌手、橘百合子。その歌手生活37周年記念リサイタルを前に、ふとしたきっかけで振り返った過去―あの時、もし違う選択をしていたら、どんな人生だったのか?回想はデビュー直前の昭和8年に遡り、歌手になることのなかった「もうひとつの人生」が浮かびあがる。そこで見えてきた意外な真実とは。人生の切なさを温かく包む、パラレル・ワールド小説の傑作。
 

内容考察(ネタバレあり)

上の「あらすじ」にもあるように本作はパラレル・ワールド小説です。「もしもあの時ああしていれば今とは違う別の未来になっていたはず」とは誰もが一度は考えることだと思います。

本作はその「もしも」の世界を描いた小説です。

 

もしもの分岐点

大物歌手の「橘百合子(本名赤井みつ子)」は18歳で叔父の一家を頼って田舎から状況します。上京後しばらくは叔父の仕事も安定しており穏やかに暮らしています。そんな日々の中で帝大学生「片桐慎一」と出会い両想いにもなります。

しかし叔父が仕事を失い収入が激減したことでみつ子も叔父一家を助けるために働くことを決意します。大した特技がないみつ子は自分の器量の良さを生かしたヌードモデルになることを考えます。

ヌードモデルの仕事の斡旋所に行こうとしたその日に叔父から映画でも見てくるように提案されます。みつ子は迷った挙句、ヌードモデルの仕事を始めるのを1日遅らせてその日は映画を見に行くことにしました。そして映画を見た帰りに音楽の専門家である柚木と偶然出会い、歌の才能が認められて新人歌手としてデビューすることになったのです。

みつ子にとって映画に見に行くか否かが「もしも」の分岐点であり映画に見に行っていなければヌードモデルになっていたと考えます。

 

ラストの考察&解説

結論から書くともう一つの過去として描かれたみつ子がヌードモデルになっていた世界こそが実は読者から見た現実の世界で、みつ子が歌手として成功していた世界こそが読者から見たパラレル・ワールドだったのです。

これだけだと訳がわからないと思うので本作の3つの時系列の構成に沿ってもう少し詳しく説明します。

①現在

本作は「現在」のみつ子が過去を振り返ることで始まる。
この世界はみつ子が歌手として大成功をした世界。

一方慎一はみつ子に振られたショックで酒浸りになり、トラブルを起こして日本刀で斬りつけられて全盲となる。しかし全盲となった慎一は目が見えない人の役に立つ道具を開発したいという意図から「電波探知機」というものの開発に成功している。

この「電波探知機」は戦争で力を発揮し、この機械のおかげで史実では負けたはずのミッドウェー海戦に日本が勝利する(日本がミッドウェー海戦に勝利したことは「現在」のラストで明かされる)。
ちなみに「現在」の最後でみつ子は年老いて落ちぶれた慎一と交通事故がきっかけで再会し、想いを温めあっている。
→この現在は読者のいる歴史と違うので読者から見たパラレル・ワールドということになる。

 

②過去

「①現在」につながる過去。みつ子が歌手になり成功し、慎一と別れる。慎一は「電波探知機」の開発を成功させる。
→この世界も読者から見たパラレル・ワールドの過去。

 

③もう一つの過去

みつ子が歌手にならずヌードモデルを目指す世界。しかしみつ子がヌードモデルの仕事をしていることを知った慎一に辞めさせられる。
お互いの想いを確認しあった二人はその後結婚する。二人は幸せに暮らしみつ子は慎一の子どもを身ごもるが、慎一は徴兵を免れず戦争にいき(おそらく)戦死してしまう。みつ子は慎一との間に生まれた娘を一人で育てることになる。
→慎一は電波探知機を開発していないのでミッドウェー海戦に勝利していない。つまり我々のいる世界と同じ世界。

本作の冒頭で歌手として成功したみつ子が「あの時歌手になっていなければ」という話を始めるため、この「現在」の世界こそが本当の世界で、もう一つの過去がパラレル・ワールドかと思ったら実は逆だったということなのでした。

ちなみにもう一つの過去(読者にとっての現実)ではみつ子は愛する慎一と結婚して暮らせたものの慎一は戦死しており、結局どっちが幸せなんだろうと考えさせられます。

我々は現実にもしもの世界に行くことはできないので現在の選択をベストと思うしかないのでしょうね、きっと。

 

マイナス・ゼロとの繋がり

こちらは余談ですが、本作は広瀬さんの代表作である「マイナス・ゼロ」とリンクしています。もう一つの過去で慎一とみつ子が新しい住居として「カシラ一家の」空いていた一間を借ります。この一間は「マイナス・ゼロ」の登場人物である浜田が戦地に行っている間のみという条件で借りたものであり、「エロス」と「マイナス・ゼロ」がリンクしていることがわかります。

 

まとめ

最後のどんでん返しは意表をつかれましたが、このどんでん返しがなくても十分楽しめる作品でした。特に昭和初期の描写がすごく丁寧で、昔はこんな感じだったのかのかその時代に入り込むことが出来ました。

未読の方にぜひオススメしたい作品です。
※上記の考察は管理人の私見ですのでご了承ください。

 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加