宮部さんの小説にしては珍しくどこかほっこりする話が多い短編集です。
とても読みやすいので宮部さんの作品を初めて読むという方にオススメできます。
全話ネタバレ
本作には全部で5つの話が収録されています。
全話ネタバレしていきますので未読の方はご留意下さい。
①我らが隣人の犯罪
隣の家に住む美沙子が飼っている犬のうるささに悩まされる三田村一家のお話。
文句を言っても美沙子を愛人として囲っている経営者の男が逆に乗り込んでくる始末。
三田村一家の長男誠は叔父と協力して美沙子の留守中に犬を誘拐して別の人に飼ってもらう計画を立てる。
その計画の途中で誠たちは美沙子と経営者の男の脱税の証拠である通帳を見つける。
当初の計画を変更して誠たちは犬を誘拐するとともにこの通帳と引き換えに美沙子と経営者の男に金銭を要求する。さらに二人の脱税の証拠が明らかになるように計画をする。
計画は半分上手くいき脱税は明るみになるがお金は手に入らなかった。
最初から美沙子と経営者の男は金銭を支払うつもりはなかったのだ。
実は誠たちが発見した通帳は美沙子と経営者の男のものではなく、誠たちからみて美沙子とは逆隣に住む夫婦の脱税の証拠だったのだ。
ではなぜ美沙子たちは素直に誠たちの強迫に従ったのか。
それは誠たちが誘拐した犬の首輪にダイヤモンドが仕込まれていてそれが本当の脱税の証拠だったからだ。
誠たちは早速ダイヤモンドを金銭に変えることにした。
②この子誰の子
父と母が親戚の結婚式に行っていて、一人で留守番をしているサトシの元に謎の女性が赤ちゃんを抱えてやってきた。
しかもこの女性は「この子はあなたの父親との間に出来た子よ。この子はあなたにとって妹なのよ」と主張している。
しかしサトシはそんなことはありえないとわかっていた。なぜならサトシの父親は子供が作れない体質だったからだ。
サトシ自身は人工授精で生まれた子だった。だから父との間に血のつながりはない。
とすると嘘をついているこの女性は一体なんなのか。
実はこの女性はサトシの実の父親の結婚相手だった。サトシの実の父親は交通事故で亡くなっており、この女性は自分の夫に似ているサトシを見て、素性を調べて乗り込んできたのだった。
自分が愛した夫に似ているサトシと会いたくて。
全てを打ち明けた女性にサトシは「時々は妹に会いに来たいんですけどいいですか?」尋ねるのであった。
③サボテンの花
ある小学校で毎年行われる卒業研究に問題が発生していた。
それは6年1組の生徒が卒業研究の課題に選んだのは「サボテンとのテレパシー」というとんでもないものだったからである。
学校側や父母はそんなものは認めないという姿勢をとっていたが、ただ一人権藤教頭先生だけが卒業研究の課題は生徒たちの自由であると主張し味方をしてくれた。
結局6年1組の生徒はそのまま「サボテンとのテレパシー」の研究を続けて発表会を迎える。
6年1組の生徒は父母の前でサボテンとのテレパシーに成功してみせる。
しかし後日全てが明かされる。
サボテンとのテレパシーは全て手品を使ったものだったと。
それでは6年1組の生徒の本当の目的は何だったのか。
それは6年1組の生徒の卒業と同じ時期に退職する権藤先生に、権藤先生の夢である「この世に一つしかない酒」をプレゼントすることだった。
サボテンから自作でテキーラを作った生徒たちは唯一自分たちの研究を応援してくれた権藤先生にこの世に一つしかない酒をプレゼントしたのであった。
④祝・殺人
バラバラに殺人事件にまつわる話。被害者は佐竹という独身男性。
犯人は誰なのか。なぜバラバラにされたのか。
犯人は佐竹の親友である高橋と高橋の義理の父。
高橋は資産家の娘と結婚したが、その前に付き合っていた女性に別れるつもりはないと言われて争いになり殺害してしまっていた。高橋はそのことを隠して結婚した。
佐竹はそのことを知り高橋の義理の父をゆすっていた。義理の父をゆすったのは資産を持っているからだ。
高橋の犯行が露見しないように高橋と義理の父は佐竹を殺害した。死体をバラバラにしたのは佐竹の指紋が必要だったから。
佐竹は会社の個人ロッカーに高橋の犯行の証拠を隠しており、その個人ロッカーは佐竹の指紋で開く仕組みになっていた。
⑤気分は自殺志願
あるレストランのボーイ長を務める男の話。
その男は味覚障害の病気にかかっており、レストランで働くのが毎日苦痛であった。
ある時男は推理作家に自分が誰かに殺されたように見せて自殺する方法はないかと尋ねてきた。
推理作家は自殺する方法を教える代わりに、男が自分の夢である書店を開くためのプランを教える。
見事成功した男は夢である書店経営が出来るようになった。
感想
個人的に一番良かったのはサボテンの花です。こういうベタなちょっと良い話にとても弱い管理人です。
宮部さんの話はいつもシリアス展開が多くて息つく暇がないのですが、今回の短編集は違っていてどこかほっこりする気持ちになれます。
ページ数的にもそんなに多くないので気軽に読める本を探している人にオススメできます。