【東野圭吾】クスノキの番人|ネタバレを含む感想

東野圭吾を面白いと再認識した作品です。

「ナミヤ雑貨店の奇蹟」のような少しファンタジーが入った心温まる物語です。

久しぶりに東野圭吾さんの本を読んだ管理人ですが、やはり面白いの一言でした。

東野圭吾さんの本はとにかく読みやすいんですよね。

そして話にすっと引き込まれる。

読む前は楽しみながら少しづつ、少しづつ読もうと思っていたのに気が付いたら一気読みしてしまう。

クスノキの番人もご多分にもれずそういう本でした。

クスノキの番人の魅力

以下はネタバレも含んでいますので未読の方はご留意ください。

 

本書の一番の魅力は主人公である直井玲斗の精神的な成長です。

物語冒頭で玲斗は自分は不倫の末に産まれた子供であり、周囲から望まれない子供であるのだから、自分の人生はうまくいくはずがないと考えていました。

しかし千舟からクスノキの番人に任命されたことで玲斗は精神的に成長します。

伯母である千舟やクスノキに祈念に来る人たちと関わることで、自信をつけていき最後には読者から見ても「一人前」と思える人間に成長しました。

特に最後の千舟とのやり取りは玲斗が頼もしくなったことを証明するシーンでもありましたね。

クスノキについて

さて本書のタイトルにもなっているクスノキには不思議な効力があります。

それは祈念に来た人の思いをクスノキの中に留めて、受念に来た人にその思いを伝えるというものです。
※ただし受念を出来るのは五親等以内の血縁関係者でかつ預念をした人の思い出がある人に限られます。

一種の遺言書のようなものなのですが、紙に残る遺言書と違うのは預念に来た人の思いを全て伝えてしまうことです。

例えばある人に感謝の気持ちを伝えたいという場合、紙であればそのことだけを書くので、読んだ人に伝わるのは感謝の気持ちだけでしょう。

しかしクスノキを使って預念をした場合、預念した人の全ての思いがクスノキに留まってしまいます。

そうすると本来伝えたかった感謝の気持ち以外にも嫉妬心や怒り、無念な気持ちなど伝えたくない気持ちも受念した人に伝わってしまうのです。

千舟は「クスノキは全てを伝える」と言っています。

 

一方でその分、預念に来た人の本当の思いを知ることが出来るとも言えます。

 

玲斗はそんなクスノキの番人を任されることで成長していくのでした。

ちなみにクスノキの預念と受念のタイミングは決まっていて、預念は新月の日、受念は満月の日となっています。

直井玲斗について

玲斗は作中の人物にも言われているのですが、基本的に賢いです。

洞察力も鋭く何も知らされていない中でクスノキの番人を任されて、徐々にクスノキの祈念の秘密に迫ったり、祈念に来た人の悩みを解決するところは感心します。

ではなぜそんな賢い玲斗が会社をクビになった上に、窃盗の罪を犯して留置場に入ってしまうまでになったのか。

それは前述の通り玲斗の根底にある「自分なんて大した人間ではない」という思いがあるからだと思います。

その考えが根底にあるので玲斗は人生の選択をする際にどうしても投げやりな決め方をしてしまうのです。

その最たるものが例のコイントスで物事を決めるやり方でしょう。

なので玲斗の成長のポイントは「自分は価値のある人間」だと気づけるか否かになります。

玲斗はクスノキ番人を務めて、千舟たちと関わることで自分は価値のある人間なんだと思えるようになりました。

そして今度は逆に千舟を救うことが出来るような一人前の人間になったのです。

 

管理人としては玲斗が今後どのように生きていくのかが楽しみです。

永久にクスノキの番人だけをするということもないでしょう。

管理人としては役員会での演説が代表取締役の将和の目に留まり、ヤナッツ・コーポレーションで活躍してくれると嬉しいなと思っています。

もともと同族経営で一族の人間はヤナッツ・コーポレーションで働くようなので、千舟の甥である玲斗が今後ヤナッツ・コーポレーションで働いても何ら不思議ではないと思います。

柳澤千舟について

玲斗同様に魅力を感じるキャラです。

やはり主役に魅力がある話は面白いです。

 

さて千舟は今までほとんど面識がなかった甥の玲斗を大事なクスノキの番人に命じますがその理由は2つです。

①認知症を発症したので後継者探し

千舟は認知症に悩まされ始めていました。

そんな状態ではこれ以上、クスノキの番人を続けることが出来ないので千舟は後継者を探す必要がありました。

しかしずっと独身であった千舟には子供がいません。

現在ヤナッツ・コーポレーションの中核を担っており、千舟のはとこである将和や勝重の子供を後継者にするという手もありますが、そうすると千舟から五親等以上も離れてしまうため、千舟の預念をうまく受念することが出来ない可能性が高いです。
※柳澤家ではクスノキの番人は代々前任者の念を受念しているようです。

自分の念を受念してもらうには最も血縁関係が濃い玲斗にクスノキの番人になってもらうのが一番です。

そんな理由からほとんど面識のない玲斗が大事なクスノキの番人に任命されたのでした。

また千舟は玲斗がちゃんと受念できるように出来る限り一緒に行動をし思い出を共有するようにしていました。

 

②腹違いの妹である美千恵への贖罪

千舟の腹違いの妹であり、玲斗の母親である美千恵。

その美千恵に対して何もしてやれなかったことが千舟にとって大きな心残りとなっていました。

美千恵は妻子ある男の子供(玲斗)を身ごもり、結果として一人で玲斗を育てていきました。

それがどれほど大変な道のりか千舟にはわかっていたはずなのにつまらないプライドや意地が邪魔をして美千恵に何もしてあげられなかったを悔いていたのです。

そして美千恵は病に倒れて若くして亡くなってしまいます。

 

美千恵が亡くなったことは千舟の大きな心の傷となります。

 

その後玲斗の存在を知った千舟は、じっとしていられなくなります。

いまこそ美千恵にしてあげられなかったことを玲斗にしてあげる時だと考えたのです。

 

その後千舟は玲斗を留置場から釈放し、クスノキの番人に任命し自らの後継者として育てていくことを決意したのでした。

 

 

 

ラストで千舟は認知症を発症していることが明らかになります。

千舟は認知症により覚えておきたい大切な思い出が消えてしまうことに恐ろしさを感じ、一人旅の末に自殺しようと考えていました。

しかしクスノキで千舟の預念を受念した玲斗は、千舟が自殺しようとしていることを認識し自殺をやめるように説得します。

 

玲斗は千舟に記憶がなくなったとしても明日の千舟を受け入れると言いました。

そして今の自分の千舟への気持ちをクスノキを通じて念で全て伝えたいといいました。

しかし千舟はクスノキの力など不要だと言います。

こうして向き合っているだけで伝わってくるものがあるんだと初めて知ったと言うのでした。

 

千舟は自殺するつもりでしたが、玲斗とのやり取りを通じて自分はまだ生きていて良いと感じたことでしょう。

そして玲斗もそんな千舟を受け入れて今後を生きていくのだと思います。

あとがき

久しぶりの東野圭吾はやはり最高でした。

ミステリーではないですが、「ナミヤ雑貨店の奇蹟」のように読み終わった後に温かい気持ちになれる1冊です。

管理人として少し残念だったのが優美のキャラ。

本作ではヒロイン的な位置づけですが、正直あまり魅力を感じるキャラではありませんでした。

ちょっと周囲を振り回しすぎというか。。

まぁそれ以外は大満足の一冊でした。

 

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