感想|邪魔『奥田英朗』

タイトルの邪魔は何を指すのか。

平凡な専業主婦が放火事件をきっかけにどんどん転がりおちていきます。

あらすじ

夫の勤める会社で放火事件が起きた。

専業主婦の及川恭子は夫が警察に疑われていることを知る。

信じようとして考えれば考えるほど深くなっていく夫への疑惑。

果たしてこの物語の行きつく先はどこなのか。

感想(ネタバレ注意)

読んでいてなんとなーく嫌な予感がしてくるお話。でもページをめくる手は止めることが出来ません。

話は放火事件の第一発見者である及川茂則の妻及川恭子、放火事件を調べる警部補九野薫、街の不良少年渡辺祐輔の3人の視点で進んでいきます。

物語の最初から夫の及川茂則があやしいという感じがプンプンしていたので、最後にどんでん返しがあるのかなと思っていたのですが、そんなことはなく普通に茂則が放火の犯人でした。

会社のお金を経理課長という立場を利用して横領していたのですが、本社の監査が入ることになりばれると思って焦って、証拠隠滅のために放火を起こしたのが犯行動機でした。

うーん。もっと他にやりようがある気がしますが。。

こちらは少し意外だったのが九野の義母が既に他界していたこと。

九野は親孝行だった亡き妻の代わりに時間が出来ては義母を訪ねていました。

九野にとっても義母との時間は安らげるものだったのですが、実は義母は既に他界していて、義母との会話は妻や義母を失い精神的に不安定になっていた九野が見た幻でした。これはちょっと意外。

違和感はありつつも普通に会話シーンが描かかれていたので実在するものだと思っていたのですが、全て九野の幻でした。

さて茂則が放火犯として追い込まれていくことで妻の及川恭子もどんどん精神的に追い詰められていきます。

気を紛らわそうとパートの仕事に没頭したり、パートの権利を訴える活動に参加したりしますが、結局のところ夫が放火を起こしたという最大の問題は何一つ解決していません。

そして夫が放火犯と確信した恭子。

放火という愚かな行為を犯した夫への愛情は既にありませんが、最愛の子ども二人を放火犯の子供にしたくないと思った恭子は夫の疑いを晴らすためにある行動に出ます。

それは家族で一泊旅行に出かけて、夫の茂則と子供達を旅館においてアリバイを作らせて、その間に自分が地元に帰り放火を起こして夫の疑いをはらすというものでした。

しかし実は九野につけられていた恭子は放火の現場を見られてしまい、混乱の最中九野をナイフで刺してしまいます。

わけもわからず逃走する恭子。

夫の茂則を責めていたが自分が一番愚かなことをしてしまった。もう子供たちの元には帰れないと思い、今後は及川恭子の名前を捨てて母親でも妻でもなく一人の女として別人として生きていき子供たちを遠くから見守っていくことを決意します。

実は恭子が放火を起こす前、夫の会社とヤクザとの間で取引が行われていました。

夫の会社は近々上場を控えており、社員が放火したという不祥事は避けたかったため、ヤクザに大金を払い、若い衆の一人が放火犯として身代わりに自首することで話がついていたのです。というより既に自首していました。

しかし恭子は精神的に追い詰められており、放火に関するニュースを意識的に見ないようにしていたためそのことを知らなかったのです。

皮肉にも恭子が放火をしたために、自首して拘留中の若い衆の無実が証明されることになってしまったのです。

つまり恭子が何もしなければ全て丸く収まっていたわけです。

余計なことをして罪を犯した恭子。

とはいえ一番悪いのは横領して放火した茂則なので恭子を責めることはできませんが。

果たして恭子は別人として生きられるのか、茂則や息子たちは今後どうなるのかは読者の想像にゆだねられています。

管理人の想像は恭子は捕まり、茂則は罪の意識から自首したのかなと思っています。

茂則はもともと自首したがってましたしね。恭子も身分がはっきりばれている以上逃げ続けるのは難しいと思います。

結局タイトルの邪魔は恭子にとっての夫茂則でしたね。他の意味もありそうですが。

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