奥田英朗さんによる短編小説です。それぞれの家族のあり方を描いていて、読んだあとほっこりした気持ちになれます。
あらすじ
会社が突然倒産し、いきなり主夫になってしまったサラリーマン。内職先の若い担当を意識し始めた途端、変な夢を見るようになった主婦。急にロハスに凝り始めた妻と隣人たちに困惑する作家などなど。日々の暮らしの中、ちょっとした瞬間に、少しだけ心を揺るがす「明るい隙間」を感じた人たちは…。今そこに、あなたのそばにある、現代の家族の肖像をやさしくあったかい筆致で描く傑作短編集。
「BOOK」データベースより
ネタバレ
本書は6つの短編からなる作品です。
どの話も「家族」をメインにした話であり読んだ後にどこかほっこりした気持ちになれます。
・サニーデイ
インターネットオークションにハマり家のものを次々と売ってしまう主婦紀子の話。
紀子は最初はちょっといらないものを売るだけという軽い気持ちで、妹から勧められて始めたネットオークションなのに落札者から高評価を得られることで異常な快感を覚えてしまう。
他人から褒められる経験の少ない紀子はネットオークションの良い評価をもらうことに病みつきになってしまったのだ。
しかし売れるものには限りがある。
不要なものをすべて売りつくした紀子は最近うまくいっていない夫の趣味であるギターやレコードまでをも無断でオークションに出品してしまうことに・・
紀子は夫は自分のことに興味がないと思っていた。
しかし夫は紀子のことをちゃんと考えていて出張で忙しいにも関わらず子供たちと一緒に紀子の誕生日のお祝いをした。
些細なことから紀子は家族からいつも幸せをもらっていたことに気が付く。
紀子は何とか出品してしまった夫の趣味の品を取り戻そうと、自分の商品を落札するよう妹にこっそりお願いするのであった。
・ここが青山
会社が突然倒産し専業主夫になった36歳のサラリーマン湯村裕輔の話。
入社して14年も務めた会社が突然倒産した裕輔。
そのことを妻の厚子に告げると自分が働くといい、厚子は前の職場で再び働くことを決める。
厚子が働くのだから自分が家事をしなければと考えた裕輔は慣れない家事に奮闘する。
最初はみそ汁の作り方ひとつわからない有様だったが、勉強して息子の弁当やアイロンがけも一通りこなせるようになった。
そんなある日裕輔のもとに倒産した会社で一緒に働いていた部長から電話があった。
内容は再就職の誘いだった。
部長は以前の取引先からスタッフ丸ごとうちに来ないかと誘われていたのだ。
そのため裕輔に自分と一緒にこないかと誘ってきたのであった。
しかし裕輔は自分は家事の方が向いているのではと考え始める。
厚子も外で働くのが性にあっているようだし、このままでもいいかと思う裕輔なのであった。
・家においでよ
妻と別居して家のインテリアを自分好みに変えていく38歳の営業マン田辺正春の話。
8年連れ添った妻が家具一式を持って家を出て行ってしまった。
正春はがらんとした家に自分の好みの家具を集める。
さらには趣味であったオーディオセット一式を購入。その噂を聞きつけた同僚たちも正春の家に集まり、正春の家は「男の隠れ家」のようになってきた。
気ままな暮らしをしていて正春だったが同僚たちからこのままではいけないとアドバイスを受けて妻に電話をすることに。
電話で話すと妻は正春の留守中に家に来ていたことがわかる。
妻は正春が正春好みに仕上げた部屋を見て独身時代を思い出したと言い、正春に来週遊びにいっていいかと尋ねる。
正春はもちろんおいでよと答える。
電話を切った正春は妻を自分の家に迎え入れるのは独身時代以来かと少しわくわくしながら部屋の掃除を始めるのであった。
・グレープフルーツ・モンスター
内職先の若い担当者を意識し始めた39歳の専業主婦佐藤弘子の話。
弘子は自宅でDM用の宛名をパソコンで入力する内職をしていた。
弘子の担当は太った50歳前後の男で、週に一度弘子が入力したフロッピーを回収していった。
ある日、弘子の担当が突然変わった。
29歳の若い男栗原が担当になったのだ。
弘子は栗原の無礼な態度に反感を覚えつつも興味を持つ。
夢の中にも栗原が出てくるようになった弘子は次第に露出の高い服を着て栗原を誘惑しようとする。
ただ実際弘子にどうこうする気はないのだが刺激がない生活のためこういうことを楽しみたくなったのだ。
しかしそんな日々にも突然終わりがやってくる。
栗原が会社を辞めてしまうのだ。
弘子は喜びとも悲しみともわからない涙を流すのであった。
・夫とカーテン
猪突猛進で新しい事業を始める夫栄一とそれを支えるイラストレーターの妻春代の話。
ある日突然栄一は会社を辞めてカーテン屋を始めると言い出した。
近所に新築マンションが数多く建設されているのでこれからカーテンの需要が増えるというのである。
言い出したら聞かない栄一を春代は止めようとするが、すでに栄一は会社に辞表を提出した後であった。
こうと決めたら突っ走る栄一は春代に相談もなく従業員を二人も雇ったり、勝手に融資を受けたりとどんどん先に進んでいく。
そんな栄一を不安に思いながらも自身のイラストレーターの仕事に精を出す春代。
ある日春代が仕事をしている編集者から連絡が入る。
春代のイラストが素晴らしいとお褒めの言葉を頂いたのだ。
春代は自分の仕事が素晴らしく調子が良い時と普通の仕上がりの時期が定期的に来ていることを自分の仕事を振り返って思い出す。
その理由を何なのか考えていると調子が良い時期は決まって栄一が新しい事業を始めているときなのだ。
これはきっと栄一の事業がダメになってもなんとか暮らしていけるように神様が自分を助けてくれているのかも考える春代。
一方栄一はあの手この手でカーテンを売ろうと画策する。
突っ走る性格の栄一だが営業マンとしてのセンスは高く、また誠実なその性格から事業は軌道に乗り始めた。
そうすると不思議なことに春代のイラストレーターの仕事は下降していくのだった。
春代はまぁこんなものかと思って仕事を頑張っている栄一においしいものを食べさせてあげだいと考えるのであった。
・妻と玄米御
ロハスに凝り始めた妻里美と隣人の佐野夫妻をどうしても冷めた目で見てしまう42歳の小説家大塚康夫の話
もともと細々と小説家の仕事をしていた康夫。
妻の里美も学習塾の事務のパートをすることで生計を立てていた。
しかし康夫が名のある文学賞をとることで生活は一変する。
ベストセラーを出した上に既存の文庫本も売れまくり信じられない金額のお金が口座に振り込まれるようになったのだ。
口座の残高が家一軒購入できる金額を超えたあたりで里美はパートを辞める。
お金が出来て消費にこだわりを持つようになった里美はロハスにいきつく。
食卓に玄米ご飯が並ぶようになったのだ。
里美のロハスへの執着ぶりに何となく抵抗感を持つ康夫。
更に康夫の周りには佐野夫妻というロハスを愛した夫婦がいて康夫を仲間に引き込もうとしてくる。
ロハスの主張自体に反論はないがどうしてもそういうものを受け入れたくない康夫。
ある日小説のネタに困った康夫は佐野夫婦や妻の里美を小説のネタに使うことを考える。
康夫はユーモア小説を書いているのだ。
ロハスにこだわる佐野夫妻や里美を冷めた目で書いてユーモア小説にしようと考えたのだ。
しかしユーモア小説で妻たちをネタにしたら間違いなく怒りを買うであろう。
それでも面白いものが欠けるなら書いてしまおうかと葛藤する康夫。
結局どうしても書きたい葛藤に勝てず康夫はネタにしてしまう。
妻たちをネタにした小説は編集部から大好評だったが、康夫はやはりこの小説が妻の目に触れるのを恐れて本にするのを辞めることにする。
代わりのネタを書かなければならなくなった康夫は缶詰状態で原稿を書くことになる。
妻の里美はその康夫を温かく見守っている。
康夫はその妻の様子を見て新婚時代を思い出しあたたかい気持ちになるのであった。
感想
どれも面白いです。
はらはらドキドキという感じではないけれどどの話も読み終わった後になんとなく温かい気持ちになれるお話ばかりです。
家族の良さを再確認出来るかもしれません。
個人的には「夫とカーテン」が一番好きでした。
この猪突猛進で少し子供っぽいところがあるけど人に好かれるのが大得意の夫としっかり者で旦那がピンチの時には自分の能力を発揮するイラストレーターの奥さん。
この夫婦の組み合わせが一番良さそうですね。
未読の方はぜひ読んでみてくださいね。
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