【湊かなえ】告白|小説版の3つの疑問点を独自に考察

湊かなえさんのデビュー作にして最高傑作の呼び声が高い「告白」の考察記事です。

管理人が読んで疑問に思った3つの点を考察していきたいと思います。

主な登場人物

考察の前に登場人物を簡単に紹介します。既に頭に入っている方は飛ばしてOKです。

森口 悠子
本作の主人公。愛娘である愛美が亡くなったことをきっかけに教職を辞す。終業式の日に教師を辞めるが、その日にクラスメイト全員の前で愛美の死は事故ではなく少年A(渡辺修哉)と少年B(下村直樹)により殺害されたことを「告白」する。

 

森口 愛美
森口悠子の娘。学校のプールで渡辺修哉と下村直樹の二人に殺害された。二人にターゲットにされた理由は森口悠子が下村が校則違反をした時、先生が自分を迎えにきてくれなかったため娘の愛美を狙うという身勝手なもの。

桜宮 正義
森口悠子の元フィアンセで愛美の父親。愛美を妊娠した時にHIVに感染していることが発覚し、その後の愛美の人生を考えて結婚はしなかった。その後は「世直しやんちゃ先生」としてメディアに出て活躍。

 

渡辺 修哉
愛美殺害の少年Aとして森口に告白される。成績優秀かつ発明の天才。周りを馬鹿と見下している。その根底にあるのは母親への屈折した愛情。森口から殺人犯としてクラスのみんなの前で告白された後も学校に通い続ける。

 

下村 直樹
愛美殺害の少年Bとして森口に告白される。母親の期待通りになれていないことに劣等感を抱く。森口から殺人犯としてクラスのみんなの前で告白された後は引きこもりになり学校に姿を見せなくなる。

 

北原 美月
クラス委員長。成績優秀だがクラスから孤立気味。下村直樹とは家が近所で初恋の相手。その後渡辺のことを好きになる。下村が登校拒否をしたときは後任の担任である寺田良輝と一緒に下村直樹の家に定期訪問を行った。

 

寺田 良輝
森口悠子の後任の担任。生徒に自分のことをあだ名の「ウェルテル」と呼ばせたがる少々うっとおしいキャラ。生徒のためを思った発言や行動をするが、生徒が言う通りに行動しないと機嫌悪くなる。ただ単に生徒のことを思って行動している自分に酔っている。悠子からもクラスの生徒からも悠子の「告白」のことは聞かされておらず最後まで事情を知らなった人物。

 

 

各事件の概要

告白の中で起きた事件の概要です。軽くおさらい程度です。

 

森口愛美殺害事件
森口悠子の娘愛美が、悠子の勤める学校のプールで水死した事件。当初は事故かと思われていたが森口悠子の調査により殺人事件であることが判明する。

犯人は修哉と直樹の二人。担任である森口に恨みがあった二人(単なる逆恨み)は修哉が開発したびっくりポシェットという触ると感電するポシェットの実験台に愛美を選ぶ。

ちなみに修哉は愛美を殺害する意図をもっていたが直樹は単に脅かすつもりだった。

予定通り愛美を感電させた二人。愛美の意識がないことに焦った直樹は感電による殺人を偽装するために修哉がその場から去ったあとにプールに落として事故死を装った。

警察は事故死としたが、終業式でクラスメイトの前で森口悠子が少年Aと少年Bが事件の犯人であることを告げる(一応少年AとBという仮称で話しているがクラスメイトが聞けば人物を特定できる話し方をしている)。

また悠子は少年AとBの自己顕示欲を満足させるだけだから警察には告発しなかった。

しかしその代わりに復讐として二人の牛乳に自身の元フィアンセであり、HIV感染者である桜宮正義の血液を入れたと告げる。

実際には血液を抜かれた桜宮正義が悠子の行動に気付き二人の牛乳を正常なものにこっそり入れ替えたため感染をすることがなかった(悠子を犯罪者にしたくなかったため)。

また、仮に血液が入っていたとしても気付かれないほどの少量ではそもそも感染する可能性は極めて低い。

しかし修哉と直樹には感染したと思わせられた。

 

直樹の母殺害事件
森口愛美殺害事件の犯人であること、更にHIV感染者の血液を牛乳パックに入れられて飲ませたと悠子に告白された直樹は学校に来ることが出来ず引きこもりになってしまう。

新しく担任になったウェルテルは直樹を学校に連れ出そうと家庭訪問を繰り返すがそれも直樹を追い詰めるだけで逆効果になる。

最終的に直樹は母親に愛美を殺したことを告白するが、母親から「失敗作」という烙印を押されてしまう。母親は直樹を殺して自分も自殺しようとするが、その際に直樹が母親を殺してしまう。

 

美月殺害事件
修哉は直樹と違い引きこもりにはならず学校に来ていた。離婚して大学で研究をしている母親に認められたいという屈折した愛情を持っておりそのためだけに行動している。

愛美を殺害しようとしたのも自身の発明道具で殺害に成功して新聞に載れば大学で研究している母親が構ってくれると考えたため。

クラスでは悠子の告発により殺人者としていじめを受けるが、そのいじめに参加しないクラス委員の美月と打ち解ける。

二人で過ごす時間が増えるが、ひょんなことから言い争いになり、美月にマザコンと的を得た発言をされて逆上した修哉は美月を殺害してしまう。

 

始業式爆破事件
美月を殺害した修哉は意を決し、4時間をかけて大学の研究室にいる母親に会いに向かった。自分のことをずっと想ってくれていると思っていた母親が実は再婚をしていて出産を控えていることを知りショックを受ける。

自殺を決意した修哉。

2学期の始業式の日に作文のことで表彰されることになっていたが、自分が表彰されるタイミングで体育館ステージ中央を爆破させる爆弾を仕掛けた。

爆弾は携帯電話ひとつで爆破出来るようにしてあり、周りを巻き込み自殺する予定だったがずっと修哉を監視していた悠子により阻止される。

悠子は爆弾を解除した後に修哉の母の勤務する大学の研究室に爆弾を仕掛けていたのだった。その後修哉起動させた爆弾により修哉の母が務める大学の研究室が爆破された。

 

作中での疑問点

ようやく本題ですが管理人が読んでいて疑問に思った点を考えてみます。

 

少年Cとみなすというメールを送ったのは誰か

悠子は愛美の殺害犯として少年A(修哉)と少年B(直樹)を終業式で告白し学校を去りました。

2年生からは新しい担任としてウェルテルが赴任します。そんなある日クラスにこんなメールが美月のもとに届きます(恐らく他のクラスメイト全員にも)。

「B組内での告白を外に漏らしたやつは、少年Cとみなす」

美月は連絡網の関係でクラス全員のアドレスを登録しているが誰だかわからないと語っており、クラスメイト以外で悠子の告白の内容を知っていて、かつクラスメイトのアドレスを知っているとしたら悠子本人しかいないでしょう。

よってこのメールを送ったのは森口悠子と考えられます。

 

 

桜宮正義による牛乳のすり替えは本当か

森口悠子の告白にてHIV感染者である桜宮正義の血液を修哉と直哉の牛乳に混入したことが明かされました。

しかしその後の森口の話では森口の犯行に気付いた桜宮が森口を犯罪者にしたくないという意図で、血液が混入された牛乳を普通の牛乳にこっそりすり替えたということです。

果たしてこれは本当なのでしょうか。桜宮正義は「世直しやんちゃ先生」としてメディアで有名な人物です。そんな人物が学校に出入りすれば目立ってしまうし、悠子の耳にも入りそうなものです。

ですので深読みすれば桜宮がすり替えたというのは嘘で最初から悠子自身が血液を入れていなかったという見方も出来ます。この場合の悠子の心境としては悠子は二人に命の大切さを知ってほしかっただけで実際に手を下すつもりはなかったというものが考えられます。

しかし森口悠子は修哉と直樹に対して本気で復讐の気持ちを持っていると考えます。クラスと生徒よりわが子が大事ときっぱり言った森口悠子の気持ちを考えると本気で復讐をする気持ちで血液を牛乳に混入していたというのが管理人の見解です。

つまり桜宮のすり替えは本当で、悠子は本当に血液を牛乳に入れていた。

 

修哉の母の大学に本当に爆弾をしかけたのか

この件に疑問を持つきっかけは2点あります。

一つは修哉が母の大学に行った際に電車で4時間かかると語っていた点です。

修哉が学校に爆弾を仕掛けたのは始業式の前日である8月31日です(爆破予定日は9月1日)。

森口悠子が爆弾を解除したのが始業式の日の朝、つまり9月1日の朝です。

始業式が始まるのは学校にもよるかもしれませんが8時30分~9時頃でしょうから、森口が電車で4時間かかる修哉の母の大学に爆弾を仕掛けるには4時30分~5時頃に学校に忍び込んで爆弾を解除し、すぐさま電車にのり修哉の母の大学に爆弾を仕掛ける必要があります。

上記のように修哉の母のいる大学に爆弾を仕掛けるのは時間的にちょっと厳しいのではと考えられます。

もう一つは桜宮が死ぬ間際に悠子を犯罪者にしたくないから血液が混入した牛乳を普通の牛乳にすり替えたと語っておりその想いを無下にしてまで犯罪を犯すかという点です。

この二つの点が悠子が本当に修哉の母の大学に爆弾を仕掛けたことに疑問を持たせています。

 

それに対する反論としては修哉に聞かせたパトカーやサイレンの音は何だったのかという点と、そもそもすぐにばれるような嘘を修哉につくかという点があります。実際は爆破していないのに爆破したといっても後ほどすぐにばれますからね。

上記の反論を踏まえて管理人は悠子は修哉の母の大学を本当に爆破したと考えます。電車で4時間といっても車を使えばもっと早いかもしれないですし、交通手段は一つじゃないですからね。

 

まとめ

個人的には森口悠子は本心から復讐を果たしがっていたと考えています。

唯一の正解は作者以外に知る由もありませんが、色々と考察出来る余地があるのは非常に楽しいものでした。

 

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