久しぶりに東野さんの作品を読んだのでネタバレ感想です。東野さんの本を読んで毎回思うことはとても読みやすいということ。
あらすじ
たとえば、毎日寝る前に一編。ゆっくり、読んでください。豊饒で多彩な短編ミステリーが、日常の倦怠をほぐします。意外性と機知に富み、四季折々の風物を織り込んだ、極上の九編。読書の愉楽を、存分にどうぞ。
ネタバレ
全9編からなる短編小説です。それぞれの話につながりはありません。一つ一つの話はしっかりしていて楽しめます。
東野さんの他のオススメ作品に比べて抜群に面白いということではないのですがオチも様々で読んで損をすることはない1冊でしょう。
以下は各編ごとの簡単な内容とオチをまとめています。未読の方はご留意ください。
正月の決意
正月の朝に初詣に行った前島夫妻。そして初詣に向かった先の神社で下着姿で倒れている町長を見つけた。困惑する前島夫妻は警察に通報する。
その後町長の意識は戻ったが記憶が戻らず事件の内容は不明のまま。
オチは町長と教育長が一人の女性をめぐって争いをし、公園から神社まで競争をして先に到着したほうがその女性にアプローチ出来るという賭けをしたというもの。先に町長が神社に着いたが頭に神社の鈴が落ちてきて気絶していただけだった。
前島夫妻は会社を経営していたがどうにもこうにも行き詰っていて、借金を返せそうにないので初詣に行った後に自殺するつもりであった。しかし町長や教育長の馬鹿らしい行動や警察の適当な捜査を見てこんな人たちが威張って生きているのに真面目な自分たちが死ぬなんて馬鹿らしいと思い自殺を思いとどまるのであった。
十年目のバレンタインデー
売れっ子小説家の峰岸が10年ぶりにかつての恋人知理子にデートに誘われた。10年前に突然彼女に別れを告げられた峰岸はそれからずっと彼女を忘れられずにいられたが、今になって一体どうしたのであろうか。
実は峰岸は知理子の親友が書いた小説を盗んで発表していた。更にその親友を事故に見せかけて殺害し、峰岸はそれからも小説家として活動していたのだ。峰岸の売れた作品は全てのその親友からの盗作によるものだった。刑事になっていた知理子はその時の証拠を見つけて峰岸を呼び出したのだった。峰岸は逮捕された。
今夜は一人で雛祭り
三郎の娘真穂が結婚することになった。しかも相手は地方の名家だ。三郎は亡くなった自分の妻のことを思い出した。妻は気難しい姑と同居していて色々と苦労をかけた。勝手な思いだが娘には名家などに嫁いで同じ思いをさせたくないと思ったのだ。
実は三郎の妻は姑との生活の中でもひそかに楽しみを見つけて暮らしていたことを娘の真穂から聞かされる。三郎はそんな妻の娘なのだからどんな家に嫁いでも楽しくやれるだろうと安心するのであった。
君の瞳に完敗
内村はある日合コンに参加した。そしてその中の一人のモモカと意気投合していい仲になれたのだ。しかしどうしてもそれ以上の深い中にはなれないままであった。ある日モモカは自分がカラーコンタクトをつけておりこれを外すとイメージが変わって私のことに興味がなくなるという。どうしても素顔を見たいという内村に気圧されて渋々モモカはカラーコンタクトを外した。
実は内村は刑事でモモカは指名手配犯だった。指名手配犯の顔を記憶している内村はカラーコンタクトを外したモモカの顔にピンときてモモカを逮捕したのであった。内村はあえなく失恋することになった。
レンタルベビー
エリーは会社の休暇を利用して本物の赤ちゃんそっくりのロボットのレンタルベビーを育てることにした。一人で育てるのは大変なので実際に結婚した後のことを想定してフィアンセのアキラとともにレンタルベビーを育てる。エリー最初は子育てに苦戦していたが段々レンタルベビーに愛着がわいてきた。
実はフィアンセのアキラもお店からレンタルした理想の男性(ロボットではない。レンタル彼女的なやつ)だった。更にエリーは60歳だった。恐らく化学が発展した未来の世界の話。
壊れた時計
闇の仕事を請け負う男の話。ある人物の部屋からある物品を盗んでくる仕事だったが、部屋の主である人物と鉢合わせてしまいはずみで殺してしまう。殺した際にその人物の腕時計が壊れたことに気付いた男は何となく不安を覚えて時計店でその時計を修理してその人物の腕に戻したのであった。
実はその男の時計は殺されたときに壊れたのではなくてもともと壊れているものだった。壊れている時計が直っていることを不審に思った警察は、聞き込みから男の身元をあぶりだし逮捕したのであった。ちなみに男が盗んだ物品は麻薬。
サファイアの奇跡
未久は昔、薄茶色の野良猫を可愛がっていた。その野良猫は未久にとっても懐いていた。しかしその野良猫はトラックに轢かれて死んでしまった。。
サファイアと呼ばれる猫がいた。世にも珍しい青色の毛を持った猫だ。数多くのブリーダーが青色の毛の子猫を交配しようとしたが誰一人として成功しなかった。しかもサファイアの持ち主となったブリーダーは謎の死を遂げていた。
そしてサファイアはある時を境に性格が変わっていた、最初の飼い主には懐いていたのにそれ以降の飼い主にはまったく懐かなかったのだ。
大きくなってトリマーとなった未久がサファイアと出会った。誰にも懐かないはずのサファイアは未久にだけは懐いた。なぜなら昔病気になったサファイアは、未久が可愛がっていた死んだばかりの野良猫の脳を移植したからであった。
サファイアを引き取った未久は青色の毛の子猫を交配することに成功する。他のブリーダーはサファイアがペルシャ猫だから雌猫もペルシャ猫を交配したが、未久はブリーダーとしての知識がなかったため雑種と交配させたら青色の子猫が生まれたのだった。
クリスマスミステリ
有名俳優として成長した黒瀬はクリスマスの日に殺害を計画していた。その相手は女流脚本家である弥生だ。売れるために年上の弥生と男女の仲になった黒瀬だが売れた今となっては弥生の存在が邪魔になったのだ。
黒瀬は毒殺を計画した。使用する毒物は弥生が所持しているマンドラゴラの毒を使用した。
弥生に毒を飲ませることに成功した黒瀬はその場を立ち去るが、何故か弥生が生きていることが判明した、
実は弥生が持っていたのは毒ではなく強力な睡眠薬だったのだ。弥生は黒瀬の殺意を確かめるために黒瀬に毒物を持っていることを明かしたのだった。黒瀬が自分を殺害するなら必ずこの毒物を使用するはずだろうと。
黒瀬の殺意を確信した弥生は最終的に黒瀬の殺害に見せかけて自殺するのであった。
水晶の数珠
直樹はアメリカで売れない役者として頑張っていた。直樹の家は日本の名家だが父親の反対を押し切って単身アメリカに出てきたのだ。
そんなある日姉から電話がかかってくる。父が末期癌で最後の誕生日パーティーを行うから来てほしいというのだ。
直樹は大事なオーディションがあるから父の誕生日パーティーの翌朝の便で出発しなければならないが父と会うチャンスはこれで最後だと思って日本に帰ることにした。
日本に到着し新幹線に乗ろうとしたところに父から電話がかかってくる。「大事なオーディションの前に日本に帰ってくるようなやつが成功するわけがない。大人しく日本で就職しろ」と言うのだ。腹がたった直樹は父に会わずにそのままアメリカにとんぼ帰りする。
しかし何故父が直樹の電話番号を知っていたのか疑問が残る。なぜなら自分の電話番号は父には教えていないし誰も父に教えていないというからだ。更に父の誕生日パーティーに直樹が出席することを父は知らなったはずなのに。
結局直樹はオーディションには合格しなかった。段々と役者になる夢をあきらめかけていく直樹。そしてその後父は死んでしまう。葬儀に出席した直樹は父から遺言状と水晶の数珠を受け取る。
遺言状には数珠の使い方が書かれていた。なんでもこの数珠は自分が望む日に1日だけ戻ることが出来るというのだ。直樹の家は先祖代々この数珠の力で繁栄をなしてきたというのだ。例えばギャンブルの結果を知っていればその日に戻って大儲けをすることも可能になる。しかし生涯にこの力を使えるのは1回限りなので使いどころはよく考えるようにと書かれていた。
そして遺言状には父も最も大事な時に数珠の力を使ったと書かれていた。
直樹は父の一番大事な時はいつだったのだろうと考えた。
葬儀が終わり日本からアメリカに帰る日、直樹は父の誕生日パーティーの翌日に空港に向かう新幹線が動いていなかったことを知った。
つまり直樹は父の誕生日パーティーに出席していたら大事なオーディションに参加することが出来なかったのだ。
この時に直樹はひらめいた。父は息子である自分のために大事な数珠の力を使ったのだと。つまり本来直樹は父の誕生日パーティーに出席するはずだった。そこで直樹と打ち解けた父は直樹の電話番号を知る。そうして翌日になって新幹線が動いておらずオーディションを受けられなくなった直樹は悲観に暮れる。そんな直樹を見て父は一度限りの大事な力を使ったのだ。力を使いあえて憎まれ口をたたいて直樹を誕生日パーティーには出席させずアメリカに帰したのだ。
自分が役者になることをあんなに反対していたはずの父の想いに直樹は心を動かされる。直樹は役者をあきらめる気持ちを断ち切り姉にこう宣言する。「もう一度挑戦する。しばらく日本には帰らない。いや、成功するまでは絶対に帰らないっ」と。
感想
管理人が一番気に入ったのは最後の「水晶の数珠」です。こういう話本当に好きです。ベタなのはわかるんですが、読んだ後に自分も頑張ろうって気持ちになれるのがいいんですよね。
意表をつかれたのは「レンタルベビー」の話。まさかエリーが60歳だったとは。エリーの友達が宇宙旅行をしてきたと言っているので結構先の未来の話なんでしょうね。
「正月の決意」もいいです。真面目な人ほど思い詰めやすいですが、色々周りを見渡してみると世の中に適当な人は結構たくさんいるものです(笑)。
9つの短編がありますが全て楽しめるクオリティでした。さすが東野さん。未読の方はぜひ読んでみて下さいね。