【道尾秀介】ラットマン|ラストのどんでん返しを解説

久し振りに大満足の一冊です。

ミスリードに次ぐミスリードで完全に騙されました。こんがらがった事件を各登場人物の視点から確認していきます。

あらすじ
結成14年のアマチュアロックバンドのギタリスト・姫川亮は、ある日、練習中のスタジオで不可解な事件に遭遇する。次々に浮かび上がるバンドメンバーの隠された素顔。事件の真相が判明したとき、亮が秘めてきた過去の衝撃的記憶が呼び覚まされる。本当の仲間とは、家族とは、愛とは―。

ネタバレ解説

ミスリードやどんでん返しの嵐でよくわからないまま終わってしまったという方もいると思うので解説していきたいと思います。

主な登場人物

まずは登場人物の簡単な整理です。

・姫川亮
本作の主人公。バンドではギターを務める

・竹内
姫川と同じバンドの仲間。

・谷尾
姫川と同じバンドの仲間

・ひかり
元バンドメンバー。桂の姉。姫川と交際している。

・桂
ひかり妹。ひかりの後任としてバンドに加入。姫川に好意を抱く。

・隅島
刑事。過去に姫川の姉が死亡した事件を担当する。今回のひかりの死亡事件も自ら志願して捜査を行う。

・野際
姫川達のバンドが練習するスタジオの経営者。経営状況は芳しくない。

事件の解説

姫川姉が死亡した事件とひかりが死亡した事件の解説です。目まぐるしく展開が変わっていきます。

姫川姉の死亡事件

23年前に姫川の姉が死亡した事件。事件の関係者の様々な思惑が働いたため真実が隠されていた。しかし結論は姫川姉が家の2階から転落したことによる事故死。

さて各事件関係者がこの事件をどのようにとらえていたか見ていきます。

姫川父の視点

娘は連れ子であったため妻と血のつながりはなかった。そしてストレスの解消に妻が娘を虐待していることも知っていた。

そのため少しでも虐待の抑止力になればとの思いで末期ガンにも関わらず自宅で療養する道を選択した。

娘が死亡しているのを見て妻が殺したと思った。なぜなら妻の服には血がついていたからだ。

妻を殺人犯にすると息子は1人ぼっちになってしまうため、娘の死を事故死に見せかけた。

なお息子である姫川亮は妻の連れ子で血のつながりはない。

姫川母の視点

夫の連れ子である娘を虐待していた。

ただ自身は虐待していた娘との関係を改めようと考えており、娘にクリスマスプレゼントを用意していた。

しかしクリスマス当日娘は2階から転落して死んでしまう。この件を虐待に悩んでいた娘が自殺したものと勘違いし、罪の意識から心を閉ざしてしまう。

なお実は娘は虐待を夢の中のことと思っており母に虐待されているとは思っていなかった。なのでそもそも自殺するはずもなかった。
※虐待を夢の中のことと誤認していたのは虐待が娘が寝ている間に行われていたため。

姫川亮の視点

最初は単なる事故死と思ったが、次第に母が殺害し、父が隠蔽工作をしたと考えるようになる。

本編の最後で母の服についていた血のようなものは実は絵の具だったことに気づき姉は事故死であることを確信し真実にたどり着く。

ひかり死亡事件

スタジオの倉庫の中でひかりが死亡していた事件。スタジオの経営者である野際が殺害したというのが真実。

またひかりのお腹の子は交際相手の姫川の子ではなく野際の子供であった。

こちらも各人の視点から事件を確認します。

姫川の視点

ひかりの妹の桂が殺害したと思っていた。ひかりと交際していたが桂に好意を抱いていた姫川は桂に罪が及ばないように事故死に見せかける隠蔽をしていた。

竹内と谷尾の視点

最初は事故死と考えていたが、事件を二人で検証していくうちに姫川の行動に疑問を持つ。姫川を信じたい気持ちと疑念の間で揺れる。

桂の視点

姫川が自分のために姉のひかりを殺害したと考えていた。姉がいなくなれば自分と姫川が結ばれることが出来るからだ。

野際の視点

ひかりと肉体関係を持った野際はひかりの心も手に入れたと勘違いしていた。スタジオの経営がうまくいっていない野際は自殺を考えており、ひかりに自分と一緒に死んでくれと頼むがあっさり断られてしまう。

これに逆上した野際はひかりを殺害してしまう。ひかり殺害後に自身も死に場を探してさまようがなかなか決心がつかず、スタジオに戻るとなぜか殺害現場の様子が変わっていた。

バンドメンバーの誰かが自分をかばって事故に見せかける工作をしてくれたことに気付いた野際は自首するタイミングを逃してしまい時が過ぎていった。

しかし最後は隅島に全てを見抜かれ逮捕される。

まとめ

管理人は作者の思惑通りにミスリードされました。

姉の事件については、父が殺害→母が殺害し父が隠ぺい→事故死という形で。

そしてひかりの事件については姫川が殺害→桂が殺害→野際の犯行という形で。

よくここまでのどんでん返しを矛盾もなく書けるものだと感心してしまいます。

道尾さんの作品は以前に「向日葵の咲かない夏」を読んで合わないと感じたのですが、その認識を改めなければならない1冊でした。

なお作品の冒頭と最後に出てくるエレベーターの話はバンドメンバーの竹内の創作作品です。

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