死神の精度|詳細ネタバレと残された謎の考察

久しぶりに読み返した伊坂幸太郎さんの「死神の精度」についての記事です。

詳細ネタバレと管理人が謎に感じた部分を考察していきます。

CDショップに入りびたり、苗字が町や市の名前であり、受け答えが微妙にずれていて、素手で他人に触ろうとしない―そんな人物が身近に現れたら、死神かもしれません。一週間の調査ののち、対象者の死に可否の判断をくだし、翌八日目に死は実行される。クールでどこか奇妙な死神・千葉が出会う六つの人生。
「BOOK」データベースより

ネタバレ

本作は6つの短編で構成されていますが、ただの短編で終わらないのは伊坂作品をよく知る人ならわかっていると思います。

最後の話を読んだときに他の短編との繋がりを感じられるのが非常に心地よいです。

この作品の好きなところは主人公の千葉のキャラクター。

千葉は死神であり死の対象となった人間について調査をします。

千葉が調査の結果「可」の報告を出すとその人間は8日目に死亡します。
逆に「見送り」の報告を出すとその人間は助かることになります。

この設定だけを見るとなんだかんだ理由をつけて「見送り」を連発するかと思いきや千葉はある意味死神らしく調査の結果ほとんど「可」の報告を出します。

だからと言って千葉のキャラクターが冷酷には感じられないです。

それは一つに千葉が死神という人間を超越した存在だから。もう一つは千葉自身がなんだかんだで人間を好きなように感じることが挙げられます。

また音楽をこよなく愛するところにも人間的なところを感じます。

千葉が調査する6人の人生がどのようなものなのか。
それでは一つ一つの話を見ていきましょう。

1.死神の精度

調査対象者は藤木一恵。

会社のクレーム処理対応をしている一恵は日々の暮らしに希望を見出せずにいた。

そんな日々の中でさらに困ったことが起きる。

それはある一人の男性が毎回一恵を指名してクレームをしてくるのだ。

さらにその男性は一恵に会いたいと言ってきた。

果たしてこの男性は単なるストーカーなのだろうか。

実はその男性は有名な音楽プロデューサーでクレーム対応をしている一恵の声に才能を感じて何度も電話をかけていたのだった。

音楽プロデューサーは一恵を歌手としてデビューさせるために一恵を説得する。

音楽が大好きな千葉は将来一恵の歌を聴くのもいいかもしれないと感じて「見送り」の報告を出すのであった。

ちなみに千葉が「見送り」の報告を出すのは6つの短編ではこれのみ。

2.死神と藤田

ヤクザの藤田が調査対象者。

敵の罠にはめられて命を狙われる藤田。

子分の阿久津、それと千葉の命を助けるために藤田は敵のやくざの本拠地に一人乗り込む。

果たして藤田の運命は。

オチとしては藤田は一人で敵の本拠地に乗り込んで生きて帰ってくることが出来る。

なぜなら藤田は千葉の調査期間中だから。

死神である千葉は7日間対象者を調査するのだがその調査期間中に対象者は死なないことになっている。

そのため藤田は一人で敵の本拠地に乗り込んで帰ってくることが出来るのであった。

ちなみに千葉は「可」の報告を出すため8日目に藤田は死亡する。

3.吹雪に死神

老女の田中聡江が調査対象者。

吹雪の中、閉ざされた屋敷で事件が起きる。

屋敷には千葉を入れて7人がいたがそのうちの3人が殺害されたのだった。

果たして真相は。

屋敷にいる登場人物は千葉、田村聡江、田村幹夫、権藤、英一、真由子、シェフの7人。

実はこの内の田村聡江、田村幹夫、権藤、英一、シェフの5人は真由子を殺害する目的で集まっていた。

田村聡江と田村幹夫の息子が真由子に騙されて自殺したからだ。

その恨むを果たそうと関係者たちが集まり、真由子を屋敷に招待したのであった。

以下は死んだ順番。

①田村幹夫

真由子を毒殺しようとして料理に毒を入れたが、真由子は千葉に料理を譲ってしまったため死ななかった。

当然死神の千葉が毒で死ぬはずがないので誰も死ななかった。

幹夫は毒の効力に疑問を持ち自分で試しに飲んでみたら死んでしまった。

②権藤

権藤は幹夫を殺したのが真由子だと勘違いし真由子を刺そうとしたが、逆に刺されてしまった。

③真由子

真由子だけを殺害するはずだったのに他の人間が死んでいくのを焦りに感じた英一が刺殺した。

真由子だけが生き残りそうな気がしたのでなりふり構わず直接手を下したのであった。

なお最終的に千葉は田中聡江に「可」の報告をした。

4.恋愛で死神

調査対象者は荻原という青年。

荻原は向いのマンションに住む古川朝美に恋をしていた。

荻原は千葉と出会ったこともきっかけになり古川朝美と距離を縮めることが出来た。

しかし古川朝美はストーカー被害に悩まされていた。

果たして二人の恋の行方はどうなるのか。

千葉が「可」の報告を出したため荻原は死亡することになる。

荻原は古川朝美をストーカーしている男を見つけて格闘した結果刺されてしまったのだった。

何となく二人にはうまくいって欲しかったので千葉には「見送り」をして欲しかった。

5.旅路を死神

20歳の青年森岡が調査対象。

森岡は母親を刺した上で、さらに街で人を刺し殺していた。

そして逃走するために千葉の運転する車に乗り込んだのだった(森岡が車に乗り込んでくるのは千葉の予定通り)。

森岡の最終目的は深津という男を殺害すること。

果たして森岡に一体なにがあったのか。

森岡は小さいころに誘拐された過去を持つ。

誘拐犯は複数人でそのうちの一人の深津という足の悪い男が森岡の見張り役であった。

深津は誘拐された森岡を励ましてくれた。

結局犯人一味は深津を除いて交通事故で死亡してしまったが、森岡と深津は生き延びた。

森岡は深津に感謝している気持ちと犯人だから憎いという気持ちの2つがあった。
しかし深津がいなければ子供であった森岡の心が持たなかったのも確かであった。

そして現在に至り、実は母親と深津が連絡を取り合っているところを森岡は目撃してしまう。

母親と誘拐犯の深津が実はグルだったと思った森岡は母親を刺してしまったのだった。

そして深津にも復讐するために千葉の車に乗り込んだのであった。

果たして本当に母親と深津はグルだったのであろうか。

実は深津は誘拐犯の一味ではなくて森岡と同じく誘拐された被害者であった。

深津は自分も誘拐されたといえば森岡が不安がるだろうと思い犯人の一味だと偽り森岡を励ましていたのであった。

最終的に二人は再会することが出来た。

なお千葉は森岡の報告も「可」としている。

6.死神対老女

調査対象者は70歳過ぎの美容師古川朝美。

今回の話は集大成というべき話で他の話とのつながりが見えてくる。

例えば調査対象者の古川朝美は「4.恋愛で死神」で荻原の恋人として登場した登場人物であるし、古川朝美の店で千葉が聞いた曲は「1.死神の精度」で千葉が唯一「見送り」にした藤木一恵が歌っている曲である。

なお「1.死神の精度」から50年ほどが経っているようでもある。

千葉は藤木一恵を「見送り」にする際にいつか藤木一恵の曲を聞けたら面白いと考えており、その願いは叶ったことになる。

古川朝美は周りの何人も事故で死んでいることから千葉が死神であることに気づいており、自らの死期を悟る。

古川朝美は千葉に一つお願いをする。それは明後日だけ10代後半の若い子がお客として店に来てくれるように営業活動をしてくれというものだった。

千葉は理由がわからないながらもその希望通りにお客を集めることに成功する。

果たしてなぜ朝美は人を集めてほしかったのか。

朝美には喧嘩別れしてしまった息子がおり、その孫が朝美の店にくることになっていた。
それが明後日だった。

息子は朝美のことを恨んでいるが孫が朝美に会いたがっているというのだ。

息子は孫が店に行く日は教えてくれたが色々と条件を出していた。

それは孫が朝美と余計な会話をしないことと自分から孫だと名乗らないこと。

朝美は孫と初めて会うのが恥ずかしいし怖かった。

しかし今の店のお客の少なさだと誰が孫かすぐわかってしまうため、朝美自身が孫をわからないように千葉に孫と同年代のお客を連れてきてくれるように頼んだのであった。

謎の考察

ここでは管理人が疑問に思ったことを考えていきます。

千葉はいつから調査を続けているのか

作中内はほぼ同じ時系列のように感じられますが「1.死神の精度」から「6.死神対老女」の間は実は50年ほどの時が経っています。

しかしこの50年という時も千葉にとっては大した時間ではないらしく、いつから死神としての活動を続けているのか気になるところです。

作中で千葉は二千年ほど前に出会った思想家から「人が生きているうちの大半は、人生じゃなくて、ただの時間」という言葉を聞いたと語っており少なくとも二千年前から活動をしていることが明らかになっています。

ちなみにこの思想家は古代ローマのセネカなので必ずしも千葉は日本のみを担当としているわけではないことがわかります。

古川朝美の報告は「可」であったのか

本作で千葉が調査した人間の調査結果は以下の通り。

1.死神の精度:藤木一恵。
→「見送り」

2.死神と藤田:藤田
→「可」

3.吹雪に死神:田中聡江
→「可」

4.恋愛で死神:荻原
→「可」

5.旅路を死神:森岡
→「可」

6.死神対老女:古川朝美
→「?」

上記の内、荻原についてはストーカーに刺される最後まで千葉が見届けていますが他の「可」とされた対象者の死因は不明です。

しかし千葉が「可」にするという発言をしていることから「可」にしたものと考えられます。

最後の古川朝美については一読した限り千葉の心が揺れているように感じたので改めて考えてみます。

まず千葉の調査スタンスについてです。

・調査期間である7日間しっかり調査をし対象者と関わる。

・しかし基本的には「可」の報告を出す。

・ただし例外もありたまに「見送り」の報告を出すこともある。

千葉が今までどれくらい「見送り」報告を出してきたかはわからないのですが、作中においては藤木一恵のみです。

「見送り」の報告をしたのは千葉が大好きな音楽が原因です。

藤木一恵が将来歌手になってその曲が素晴らしいものなら千葉にとってもよいことだと考えたのです。

このことから考えるに基本的に自分の楽しみである音楽が絡まない限り千葉は「可」にするものと考えられます。

とすると古川朝美は気に入っているようでしたが最終的に「可」の報告をしたと考えられます。

あとがき

久しぶりに読み返した作品ですが相変わらず面白い作品でした。

主人公の千葉は「可」の報告を連発しているのになぜか冷酷に感じない不思議な魅力もあります。

「可」の報告を出すのも死神として千葉の仕事だから仕方ないと思えるのかしれません。

未読の人はぜひ読んでみて下さい。

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