横山秀夫さんの小説「半落ち」のお感想です。
なんとなく「半落ち」という言葉の意味がわからずに敬遠していたのですが、取り調べで全てを話さず完全に落ちていない状態を「半落ち」と言うそうです。
あらすじ
現職警官梶聡一郎がアルツハイマー病の妻に殺してほしいと懇願され殺害したと自主してきた。
梶は取り調べには素直に応じていて殺害の動機や、殺害方法についてはよどみなく話すが、なぜか殺害から自首するまでの空白の2日間については頑として何も話そうとしない。
この空白の二日間について様々な憶測が飛び交うが真相は一体・・・
感想(ネタバレ注意)
梶が殺害から自首するまでの空白の二日間についての謎を様々な人物の角度から追っていく形式です。
語り手は章ごとに変わりますが時系列に沿って話は進んでいくので読みやすいです。
第一章 志木和正の章
W県警本部捜査第一課の警視であり梶の取り調べを担当。
妻を殺害した後の空白の二日間を調べるが、どうやら新宿歌舞伎町にいっていたようだと判明する。
また、梶は部屋に「人間五十年」と書いた紙を残しており49歳の梶は50歳になったら自殺するつもりではと考える。
果たして空白の二日間に何があったのか、なぜ50歳で自殺をしようとしているのか。
第二章 佐瀬銛男の章
梶を担当する検事。
警察からの自白調書を読みと空白の二日間は自殺場所を探してさまよっていたと記載されていた。
佐瀬は警察組織にとって都合の悪い二日間について組織ぐるみで隠ぺいをしているのではないかと疑い、捜査に乗り出すが・・・
第三章 中尾洋平の章
東洋新聞の記者。梶事件について調べるが同じく空白の二日間について興味を持つ。
第四章 植村学の章
梶の担当弁護士。
梶との面会で梶が誰かを守るために空白の二日間について黙秘していることがわかる。
第五章 藤林圭吾の章
梶事件の裁判官。
梶を懲役4年に処した。
第六章 古賀誠司の章
梶を収容するM刑務所の定年間近の刑務官。
梶が50歳で自殺するのではという情報があるため、刑務所内での警備を強める。
真相
謎は梶の空白の二日間の行動と人間五十歳という遺書の内容の二つ
①空白の二日間の行動
自分が骨髄を提供した青年池上一志を尋ねに池上が働く新宿の歌舞伎町のラーメン屋にいっていた。
梶は息子が適合するドナーが現れずに病死してしまったことから、見知らぬ誰かを助けるためにドナー登録をしていたのだった。
息子を病気で亡くし、妻に殺してほしいと懇願されて殺害した梶にとって唯一つながりを感じられるのはかつて骨髄を提供した池上一志しかいなかった。
二日間の行動を黙秘していたのは池上に迷惑をかけたくなかったから、人殺しに骨髄をもらったという思いをさせたくなかったから。
②人間五十歳の真意
51歳の誕生日になるとドナー登録が取り消しになるため。
池上と会った梶は自分の体が誰かに命を吹き込むことが出来る価値があると実感し、こんな自分でも人を救える可能性があるのなら、ドナー登録が取り消しになるまでは生きていようと考えていた。
そのためドナー登録が取り消しになる51歳になったら自殺を決意していた。
ドナー登録のためとは予想がつかなかったです。
刑務所に面会に来た池上によって今度は梶が逆に池上から命を吹き込まれる形になるのでした。
梶はきっと今後も生きる決意をしたのでしょう。
池上が作ったラーメンを食べるために。