米澤穂信さんの短編ミステリー小説。
米澤穂信さんの本は独特な雰囲気がありますが今回はどの話も素晴らしく面白く大満足な1冊でした。
感想(ネタバレ注意)
ネタバレしますので未読の方はご留意ください。
夜警
<謎>
夜警中に殉職し、世間で勇敢な警官と称されている川藤巡査の死の真相について
<真相>
川藤巡査は気が小さくそれでいて拳銃を撃つことに執着するダメな男であった。
ある日一人交番で留守番していた川藤は留守中に拳銃をいじっていたら誤って発砲してしまった。
運よく弾丸は見つかったがこのままでは拳銃と弾丸を返却する際に発砲したことが知られて自分は破滅してしまう。
そこで川藤は今回の暴発を隠すために実際に発砲する状況を自分から作り出すことを考える。
そのために日ごろから浮気が疑われていて夫に殺されると交番に相談に来ていた奥さんの家に匿名で電話をし「お宅の奥さんは交番の人間と浮気をしている」と夫に伝える。
夜になって夫から浮気を疑われた妻は夫に殺されそうになり交番に通報する。
川藤は通報を受けた内の一人として現場にかけつける。
その際にナイフを持った夫をわざと怒らせて鎮圧するという名目で全弾を発砲する。
この発砲現場に自分が暴発した弾丸をそっと置いておくことで暴発事件をごまかせると考えたのであった。
結局夫は撃たれたものの、発砲した川藤を執念で刺したため川藤は殉職してしまったのである。
死人宿
<謎>
自殺の名所と言われる温泉の脱衣所に落とされた遺書の持ち主を3人の宿泊客の中から見つけ出す話
<真相>
残された遺書には名前と日付が入っていなかった。
つまり遺書はもう一枚ある。
また遺書に宿への感謝が綴られていたことからこの遺書は宿で書かれたものだと見抜き、書き損じた1枚は宿の付近の川に捨てられた可能性が高いことに気付く。
そして川の下流で署名入りの書き損じた遺書を見つけて宿の宿泊者名簿を確認することで自殺を阻止することが出来たのであった。
しかしその宿泊客の自殺は阻止できたもののもう一人自殺を考えていた宿泊客がおりそちらの自殺は阻止出来なかったというオチ。
柘榴
<謎>
父親は家をほとんで空けていてたまにしか帰ってこない。
母親と二人の美人姉妹は3人でつつましく暮らしていたが、母親は父親の生活力のなさに耐えかねてとうとう離婚を決意した。
一緒に暮らしている二人の娘も当然自分についてくるものと思っていたが娘二人は父親を選んでしまう。
<真相>
娘二人はお互いに傷をつけあって、この傷は酔った母親から受けたものだと親権を判断する審判官に伝えた。
その虐待が決めてとなって親権は父親が持つことになった。
母親は自分が酔ったとしても娘たちに手をあげることなどないとわかっていたが娘たちは生活力のない父親を心配して支えようとしているのだと理解してあえて反論はしなかった。
しかし真相は二人の娘は父親に恋をしていた。
父親と一緒にいるために母親からの虐待を装ったのだということが明かされる。
しかも姉は父親の愛情が妹にいかないように虐待を装う際に背中に消えない傷を残すのあった。
万灯
<謎>
仕事のために殺人をおかした男が特殊な裁きを受ける話
<真相>
井桁商事の伊丹はバングラデシュで天然ガス資源を探す仕事をしている。
候補の1つを見つけたのだが中継地点としてボイシャク村という現地の村に天然ガスを運ぶための施設を建設する必要がある。
ボイシャク村に施設建設の交渉をしたところ一人の村長アラムに強硬に反対されて取り合ってもらえない。
ある日伊丹とフランスから天然ガスの開発に来ている森下がアラムとは別の村長に呼ばれる。
他の村長達は天然ガスの開発により施設が出来て人が集まることを望んでおりアラムを疎ましく思っていることを語る。
そして伊丹と森下がアラムを殺してくれるのなら自分たちは施設の建設に賛成するという。
天然ガス開発のためにはやむなしと伊丹と森下はアラムを交通事故に見せかけて殺害する。
しかし伊丹は共犯の森下のその後のうろたえた様子が気になっていた。
森下の会社に電話をすると既に退職して日本に帰国しているとのこと。
森下が罪の意識に苛まれて殺害を告白してしまう可能性を恐れ森下も殺すことにする。
日本に帰国して森下をうまく誘いだして車内で殺して死体を始末した伊丹。
しかしその後のニュースで森下がバングラデシュでコレラに感染していたと知る。
伊丹は日本に帰国する際、検疫を受けており入国時にはコレラに感染していなかったことが明らかになっている。
つまり伊丹がコレラに感染するとしたら日本で森下に接触したとしか考えられなくなってしまう。
この事実と森下の死を結びつけられたら自身の罪がすぐに明らかになる。
自分のこの体調不良は単なる仕事の疲れなのかそれともコレラに感染しているのだろうか。
伊丹は一人ホテルで裁きの時を待つのであった。
関守
<謎>
4件の死亡交通事故が発生した峠道の真相
<真相>
一人のライターが峠道の4件の交通事故について調査をすることにした。
峠道前のドライブスルーで聞き込みをしようと入るがそこには一人の老婆がいた。
老婆は何でも快く話してくれた。
しかしの真相は・・・
・1件目の死亡事故
老婆の娘が暴力を振るう自分の旦那をドライブスルーにて石仏で殴って殺してしまった。
その事件を隠すために老婆とその夫が事件を隠ぺいするために交通事故をでっちあげた。
また殴った際に石仏の首が取れてしまったため接着剤で修復した。
・2件目の死亡事故
凶器の石仏を卒業論文のために調べにきた大学生に睡眠薬を飲ませて交通事故を起こさせた。
・3件目の死亡事故
たまたま立ち寄った2人のカップルが痴話げんかの際に石仏を蹴っ飛ばしてしまった。
その際に石仏の首が取れてしまい接着剤で修復した後を見られてしまったため睡眠薬を飲ませて交通事故を起こさせた。
・4件目の死亡事故
石仏を村の文化財にしようとしていた役人に石仏の首が折れていることに気付かれてしまった。
持ち帰って専門家に修復させるといわれたので凶器に使われたことがばれるのではと焦り交通事故に見せかけて殺害した。
つまり4件の交通事故は自分たちの罪を隠ぺいするためにドライブスルーを経営する老夫婦が起こした殺人事件。
そしてこの事件を調査しているライターも話の最中に出された飲み物に睡眠薬を混入されて眠りにつくのであった。
満願
<謎>
学生時代に下宿していた家のおかみさんが殺人事件を犯した。
果たして殺意はあったのか否か。
<真相>
学生時代に下宿先でお世話になったおかみさんが殺人事件をおこした。
お金を借りていた相手を刺してしまったのだ。
弁護士になった自分はかつて世話になったおかみさんの弁護を引き受ける。
殺害が突発的なのもであり計画的なものでなかった証明として家宝の掛け軸が殺害現場にかけっぱなしになっていてその結果血痕が付着していることを挙げた。
もし計画的殺人であれば家宝の掛け軸を出しっぱなしにしておくはずがないと言及したのだ。
しかし真相は
掛け軸に付着した血痕は掛け軸の価値に影響が少ない端の方であった。
借金の代わりに家宝の掛け軸を要求されていたおかみさんは掛け軸に血痕をつけて警察に一時的に証拠品として保管させることで借金取りから守ることにした。
そして旦那が死んだ際にその保険金で借金を完済し裁判を終わらせて掛け軸を返還してもらい掛け軸を守ったのであった。
おかみさんの行動は全て先祖代々伝わる掛け軸を守るためのものであったのだ。