ネタバレ感想:影法師『百田尚樹』

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偉大な光の側に偉大な影あり。偉大な影、磯貝彦四郎の足跡を追う物語。

あらすじ

頭脳明晰で剣の達人。将来を嘱望された男がなぜ不遇の死を遂げたのか。下級武士から筆頭家老にまで上り詰めた勘一は竹馬の友、彦四郎の行方を追っていた。二人の運命を変えた二十年前の事件。確かな腕を持つ彼が「卑怯傷」を負った理由とは。その真相が男の生き様を映し出す。『永遠の0』に連なる代表作。

影法師「百田尚樹」 講談社文庫

 

ネタバレ

二十年前の上意討ちは彦四郎&勘一VS森田&宮坂で行われた。彦四郎はこのとき下級武士である勘一に出世してもらうためにわざと自分の背中を浅く切らせ卑怯傷を負い、その上で敵の隙を作り勘一に二人を仕留めさせた。
この時、卑怯傷を負った彦四郎の評価は地に落ちたが、二人を仕留めた勘一の評価はうなぎ上りとなり、勘一の出世の道が開かれた。

出世した勘一は干拓の仕事を任されていたが、それを快く思わない者から妨害工作を受けていた。勘一は自らが夜中の見張りに立ち妨害工作をしたもの達を追い詰めるが、敵の罠にかかり前後に囲まれてしまう。絶対絶命の中、勘一を後ろから狙う敵がばたばたと倒れていく。敵を倒した人影は何もいわず去っていったが勘一は自分を助けてくれたのは虎之丞(とらのじょう)だと思った。なぜなら彦四郎はこのとき昼間から酒浸りの日々だったからだ。しかし筆頭家老となった勘一が彦四郎が死んだ後に虎之丞とこの件について話し、自分を助けてくれたのは親友彦四郎だったことを勘一は知る。

とうとう江戸への大出世を果たした勘一。妻と子供を連れたって江戸へ向かう。無事に江戸にたどり着いた勘一達だが、実はこの時腕の立つ刺客3人に狙われていた。しかし刺客達は勘一と出会うことはなかった。それは刺客を放たれたことを察知した彦四郎が、婦女に暴行を働いたふりをして藩を出て、刺客が勘一と出会う前に全員を切り倒したからだ。この時婦女に暴行を働いたふりをしたのは、勘一の親友である自分が何の理由もなく藩から姿を消すと、刺客を追ったものと敵側に警戒される恐れがあったため。

勘一は筆頭家老となり江戸から藩に戻り、亡くなった彦四郎の足跡を追ううちに、自分はずっと彦四郎に守られていたことを知る。彦四郎は自分の名声を地に落としてまでひたすら勘一の出世を助け、人知れず命を守ってきたのだ。そんな彦四郎は藩を出て貧しい暮らしの中病を患い死んでしまった。彦四郎のことを思い、彦四郎と出会ったときに「武士はなくものではない」と言われて以来流していない涙を勘一は流した。

感想

勘一を人知れず支える彦四郎の行動は常人には理解できないだろう。なぜ自分の評価を貶めてまで勘一の影となることが出来るのか。

彦四郎は剣、学問ともに抜群に優秀で人間としての器も大きい。しかし彦四郎は何でも天才的にこなせてしまう反面、生涯の目標というか自分の命をかけてでも成し遂げたいことはなかった。

その自分の生涯の目標を勘一の陰として生きることに決めたのは、勘一という人間が好きだったこともあるが、飢える人を減らすために新田開発をしたいという勘一の志しに共感したからだと思う。それは勘一を狙った刺客に彦四郎が言い放った「名倉勘一は茅島藩になくてはならぬ男」の一言からもうかがえる。

一方勘一にとって、どんなに努力しても軽々と自分の上をいく彦四郎は、嫉妬を通り越して憧れの人物だった。しかも彦四郎はただ能力が高い天才ではなく人間の器も大きい男だった。

勘一と彦四郎の関係は上手く行く組織のナンバー1、ナンバー2のようだ。ナンバー1は魅力ある将来の志しを描き、優秀なナンバー2がそれをサポートし実現する。まさに勘一と彦四郎そのものだ。

彦四郎のすごいところは自分が勘一の影として成し遂げたことを勘一自身にすら認めてほしいと思わないところだ。普通誰もが自分の功績を誰かに認めてほしいと思う。だが彦四郎は功績を認めてもらうどころか自分の評価を貶めてまで勘一の出世を助け、勘一の命を守った。そして誰にもそのことを言わずに。

勘一がもう少し早く、せめて彦四郎が死ぬ前に彦四郎の行いに気付いていたら、彦四郎を貧しい暮らしから救うこともできたかもしれない。でも彦四郎はそういったものに興味はなさそうだから断るのかな。彦四郎は自分が助けた勘一がぶれずに志しどおりに新田開発をやりとげただけで満足のはずだから。

彦四郎みたいな人間はいないだろう。と思いつつも彦四郎の魅力にどっぷりはまり長文の感想になってしまいました。

勘一と彦四郎という魅力ある二人の光と影の話。非常に面白かったです。

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