タイトルからはどんな話か想像が出来ませんでした。読んでみると「ああ、なるほど」といった感じ。出版業界の裏側を描いた本作はブラックな内容ですが、最後にほっこり出来るポイントがあるのはさすが百田さんだなと思います。
あらすじ
敏腕編集者・牛河原勘治の働く丸栄社には、本の出版を夢見る人間が集まってくる。
自らの輝かしい人生の記録を残したい団塊世代の男、スティーブ・ジョブズのような大物になりたいフリーター、ベストセラー作家になってママ友たちを見返してやりたい主婦……。
牛河原が彼らに持ちかけるジョイント・プレス方式とは――。
現代人のふくれあがった自意識といびつな欲望を鋭く切り取った問題作。「知っているか? 現代では、夢を見るには金がいるんだ」
感想
タイトルの「夢を売る男」は自己顕示欲が強い一般人に本の出版という夢を叶えてあげる編集者・牛河原勘治(うしがわらかんじ)のこと。
牛河原は本を出版したい一般人をあの手この手で発掘しては、ジョイント・プレス方式という方法で本を出版する夢を叶える。ジョイント・プレス方式は本の出版費用を全額出版社が負担するのではなく著者にも負担させる方式(なお本作の場合実質全額が著者負担)。
ジョイント・プレス方式により出版した本は売れなくとも牛河原の働く丸栄社に何のリスクもない。ただ作るだけで多額の利益を著者から得ることが出来るのだ。うーん、実に素晴らしいビジネスモデル。
牛河原の口が達者であるため著者は自身の本がベストセラーになることを信じて、ジョイント・プレス方式にお金を払ってでも本を出すのだ。この牛河原の営業トークは本書の見所でどんどんと本人をその気にさせてしまうテクニックは小気味よい。
これだけ聞くと牛河原は著者を騙す詐欺師のように思える(まぁそういう部分もあるのだが)。しかし仕事に対しては信念を持っており本を出版させることは一般人の夢を叶えるサービスと考えている。なので牛河原が担当したお客からは本が売れなくても感謝されているのだ。
また牛河原の発言にも納得してしまうことが多い。部下からいい文章の基準は何かと問われた牛河原はこう回答する。
読みやすくてわかりやすい文章だ。それ以上でもそれ以下でもない。もうひとつ言っておくと、文章というのは感動や面白さを伝える道具にすぎん。つまり、読者をそうさせることに成功した作品なら、その文章は素晴らしい文章ということなんだ。世の中には、作品は面白いけど文章が下手だなとか、したり顔でのたまう奴がいるが、自分の言っていることの矛盾に気づいていない。面白いと感じたならその文章は下手ではない。
非常に明確でシンプルな牛河原の論理は聞いていてすっと頭に入ってくる。このように出版業界を牛河原のコメントを通して知れるのが面白い。
「永遠の0」や「影法師」といった百田さんの他の作品に比べるとインパクトに少し欠けるかもしれないが、管理人は十分に楽しめた。
読めば読むほど牛河原が好きになってくる1冊。
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