【小説】永遠の0|ネタバレ感想『百田尚樹』

感動の涙を流したい人にオススメ!

あらすじ

「娘に会うまでは死ねない、妻との約束を守るために」。そう言い続けた男は、なぜ自ら零戦に乗り命を落としたのか。終戦から60年目の夏、健太郎は死んだ祖父の生涯を調べていた。天才だが臆病者。想像と違う人物像に戸惑いつつも、一つの謎が浮かんでくる―。記憶の断片が揃う時、明らかになる真実とは。涙を流さずにはいられない、男の絆、家族の絆。

感想

いや、こんなにボロボロ泣くとは思いませんでした。

本作は孫の健太郎と姉の慶子が特攻隊員として戦死した祖父宮部久蔵がどのような人物であったかを戦争経験者に聞いて明らかにしていく話です。

これだけ聞くとちょっと退屈そうに聞こえるかもしれませんがとんでもない。恐らく作者の百田さんはかなりの取材をされたのだと思います。当時の戦争の話がかなり詳しく書かれています。

零戦が開発当初は無敵の戦闘機であったにも関わらず、戦争末期には米国の戦闘機に性能で追い越されていたなど知らないことばかりでした。

面白いというと不謹慎かもしれませんが零戦を駆使した各パイロットの戦術はとても詳しく書かれていて興味深かったです。

また当時の神風特攻隊がどのような思いで特攻に向かったのか、その胸中は戦争がない平和な時代に生きる自分たちこそ知っておくべきかもしれません。

ネタバレ

本作は宮部久蔵の二人の孫、健太郎と姉の慶子が、祖父宮部久蔵と戦争中に関わりがあった人たちを訪ねていき、話を聞くことで徐々に宮部の人物像が明らかになっていきます。

以下はそのインタビュー結果のまとめ。

1人目:長谷川へのインタビュー

戦闘機乗り。宮部久蔵は敵から逃げ回る臆病者で、生きて家族のもとに帰ることだけを考えていた男だったと語られる。宮部が逃げなければ自分は腕を失うことがなかったと宮部を恨んでいる。

2人目:伊藤寛次へのインタビュー

戦闘機乗り。宮部久蔵は勇敢なパイロットではなかったが、優秀なパイロットだった。また軍人にしてはとても丁寧な言葉遣いで話す男であった。

3人目:井崎へのインタビュー

戦闘機乗り。宮部久蔵は臆病者ではなく命を大切にする男だった。井崎は宮部のどんな時でも生き延びることを考えるという教えを守ったからこそ戦争を最後まで生き残ることが出来た。

4人目:永井へのインタビュー

戦闘機の整備兵。宮部久蔵は整備兵である自分たちにも丁寧に接する男であった。そして戦闘機の整備にとても気を使っていた。宮部が戦闘機の不調を訴える時は実際かなりの確率で故障していた。また宮部は囲碁もかなりの腕前であった。

5人目:谷川へのインタビュー

戦闘機乗り。戦争初期の宮部の仲間。宮部は無茶な操縦ではあったものの天才的なパイロットであったと語る。

6人目:岡部へのインタビュー

宮部久蔵は予備士官の指導も行っていた。宮部は予備士官に対する丁寧な態度とは裏腹になかなか合格点を与えなった。それは合格を出した予備士官から特攻に出されるからである。宮部は予備士官に操縦技術が上達して欲しいと思うとともに、上達したら特攻で死んでしまうので上達して欲しくないという相反する思いを抱えて指導をしていた。

7人目:武田へのインタビュー

予備士官の戦闘機乗り。宮部久蔵は素晴らしい指導教官であった。予備士官の一人が訓練で死んだ際に上官がその訓練生のことを罵倒したが宮部はその訓練生を庇った。そんな宮部を予備士官全員全員が慕っていた。ある時訓練中に敵機の襲撃を受けて、宮部の戦闘機が襲われたが予備士官の一人が自らの身を犠牲にして庇ったおかげで宮部は助かった。その予備士官も命は助かった。

8人目:景浦へのインタビュー

戦闘機乗り。景浦は宮部久蔵を一方的にライバル視していた。宮部を倒したいという思いから宮部に模擬戦を申し入れて戦ったが宮部の天才的な操縦技術に歯が立たなかった。景浦はその後宮部の最後の特攻を援護する役目を請け負った。自分の身がどうなろうともライバル視しておりかつ憧れていた宮部を守りぬく覚悟だったが、戦闘機のトラブルによりその役目を果たすことができなかった。

9人目:大西へのインタビュー

通信員。宮部久蔵が最後に特攻に出るのを見送った。宮部は特攻に出る間際に予備士官の学生に零戦の戦闘機を交換してくれと頼んでいた。そして宮部と戦闘機を交換した学生パイロットは離陸したが戦闘機のエンジントラブルで特攻が出来ずその戦争を生き延びることが出来た。そしてその予備士官の名は健太郎と慶子の義理の祖父大石賢一郎であった。

10人目:大石賢一郎

予備士官。健太郎と慶子の義理の祖父。大石は訓練生時代に宮部が敵機に襲われた際に庇ったことがあった。宮部は特攻の直前に自分が乗る予定だった戦闘機が不調であることに気づいていた。このままこの戦闘機に乗れば離陸後にエンジントラブルを理由に特攻を回避して生き延びることが出来た。

しかしかつて自分を庇ってくれた大石に戦闘機の交換を申し出て生き残りのくじを大石に譲渡したのだ。そして交換した戦闘機には「もし、大石少尉がこの戦争を運良く生き残ったら、お願いがあります。私の家族が路頭に迷い、苦しんでいたなら、助けて欲しい。」という書置きが残されていた。

大石はその書置きに従い、戦後宮部の家族を探しあて、何年もの間援助をし続けてた。そして宮部の妻は大石に宮部の影をみて、二人は結ばれることとなった。なお大石は結ばれる際に宮部から生かされたことを宮部の妻に打ち明けた。

エピローグ

特攻に出た宮部は米軍のレーダーに捕捉されないように、はるか遠くから海面すれすれを飛んでいき、敵の弾丸をかいくぐり特攻を成功させた。しかし戦闘機に積んだ爆弾が不発に終わり、敵艦を撃沈することは出来なかった。宮部は敵艦に激突した際に亡くなった。

敵艦の船長は自分たちの弾丸をかいくぐりここまでたどり着いた宮部に敬意を表して、翌日宮部のポケットに入っていた家族の写真とともに水葬を行った。そして宮部の遺体は海の底に沈められたのであった。

モデルはいたのか?

色々と調べてみたところ、特定のモデルはいないようです。複数人の実際にあった話を織り交ぜて宮部久蔵という架空の人物が作られたと考えられます。

まとめ

久しぶりにこんなに感動する小説に出会いました。最後宮部はどんな気持ちで大石に生き残りのくじを譲ったのだろうかとか色々と想像して涙ぐんでしまいます。

ちなみに宮部の妻をやくざの手から救ったのは宮部をライバル視し、かつ憧れていた景浦です。特攻の援護を最後まで出来なかった罪滅ぼしだったのでしょう。

最初は単なる臆病者だと語られた宮部久蔵が色々な人から話を聞いていく内に言葉では表せないほどの魅力を持った人物であったことがわかります。影法師の彦四郎と同じく天才的な能力を持ちながら、驕ったところが一切ない大きな器の持ち主です。

読んだ後に温かい気持ちになりたい人はぜひ。

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