他人の死の運命が見えたらどのように行動するのだろうか。助けるために奔走するのか、自分には関係ないと放置するのか。本作はそんな不思議な能力を持った男の話。
あらすじ幼い頃に家族を火事で失い天涯孤独の身となった木山慎一郎は友人も恋人もなく、自動車塗装工として黙々と働くだけの日々を送っていた。だが突然「他人の死の運命」を視る力を手に入れ、生活は一変する。はじめて女性と愛し合うことを知った慎一郎の「死の迫る人を救いたい」という思いは、無情にも彼を窮地へと追いやり…。生死を賭けた衝撃のラストに心震える、愛と運命の物語。
フォルトゥナの瞳の設定
本作は他人の死の運命が見えるというちょっとSF要素の入った話。
主人公の慎一郎には死が近づいている人の身体が透けて見えるのだ。身体が透明に近ければ近いほどその人には死が近づいていることになる。ちなみに自分の死が近づいていても自分の身体は透けて見えないため自身の死の運命を知ることは出来ない。
これだけなら話は簡単なのだが、さらに追加の設定がある。
それは死の運命にある人を助けると自分の寿命が縮むのだ。これは作中では「死神の怒りを買うため」と表現されている。
なので慎一郎は他人の死の運命が見えるし、救おうと思えば救うこともできるが、救ってしまうとどんどん自分の寿命が縮んでしまうのだ。ここで葛藤が生まれる。
もう一つの葛藤は本来死ぬ運命にある人を助けることが正しいのかどうかいうことだ。
作中では慎一郎と同じくフォルトゥナの瞳を持つ黒川という50代の医師が登場する。この黒川は昔は死の運命にある人を助けていたが、ある事件をきっかけに止める。
その事件は黒川が死の運命から救った男が半年後に別の女性を殺害したのだった。自分が男を助けなければその女性が死ぬことはなかったと考えた黒川は他人の死の運命に関わることは止めたのだった。
上記のような葛藤がある中、慎一郎がどのように行動するかが本作の見所である。
ネタバレ感想
※未読の方はご注意下さい。
最後大勢の人を助ける代わりに慎一郎は死んでしまう。
しかし慎一郎には生きて欲しかった。子供の頃に両親と妹を失いたった一人で生きてきて、幸せになることはないと思っていた慎一郎。しかしそんな彼も葵と出会い、仕事も順調でようやくこれから幸せになれると思った矢先に大勢の人が死ぬ運命が見えてしまうとは。葵と共に生きる未来を選ぶか、大勢の他人を救って死ぬ未来を選ぶか。
普通の人なら葵と生きる未来を選び気がするけど、大勢の他人を救って死ぬ未来を選択した慎一郎。
大勢の人を救えて良かったのかもしれないけど葵が悲しんでいる以上ハッピーエンドとは言えないラスト。
ちなみに葵が慎一郎と同じフォルトゥナの瞳の能力者というのは恐らく多くの人が途中で気付いたと思う。
葵自身はフォルトゥナの瞳を使って他人を救う道を選ばず黒川と同じように他人と関わらないで生きる道を選んだ。でもこれはある意味当然に思う。誰だって他人の命を助ける代わりに自分が死ぬとなれば躊躇するものだ。
しかし葵も慎一郎だけは助けたかった。だからみんなを救うために死を選んで身体が透明に見えていた慎一郎を何とか救おうとしたのだ。慎一郎を助けると葵自身が死ぬ可能性があるにも関わらず。
慎一郎と葵。どちらも素晴らしい人間のため二人の幸せなラストが見たかったな。
本作の謎
読んでいて謎に思ったシーンを振り返ります。
黒川の死因
慎一郎と同じフォルトゥナの瞳の持ち主で、他人と関わることを止めた黒川。最後に会った時、慎一郎から見て黒川は透明になっていなかったことから直前まで死の運命ではなかったことになる。
とすると作中慎一郎が述べたとおり考えられるのは他の死の運命にある誰かを救ったために死んでしまったということだ。
では一体誰を助けたのだろうか。あれだけ徹底して他人への関与を排除していた黒川だから見ず知らずの人を助けたとは考えづらい。
そうすると黒川自身が語っていた二人の息子のどちらかを助けたと考えるのがしっくりくる。慎一郎に息子の身体が透けて見えたらどうするかと質問された際にお茶を濁していることからも、息子の死の運命を知り助けてそれと引き換えに死んでしまったと考えるのが自然である。
盗まれた指輪
慎一郎が葵にプレゼントするために購入した70万円の指輪。葵を待っている間に盗まれてしまったのだが、この指輪の意味が最後までわからなかった。
なぜ指輪をせっかく登場させたにも関わらず盗まれてしまったのか。作中での意味がわからず最後まで残る謎。
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