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【小説】ゴールデンスランバー|徹底ネタバレ感想

若者から絶大な支持を得ている伊坂幸太郎氏。
その伊坂氏の最高傑作との呼び声も高いゴールデンスランバーのネタバレ感想記事です。

ちなみに管理人は伊坂氏の作品の中では本作が一番のお気に入りです。

あらすじ
仙台での凱旋パレード中、突如爆発が起こり、新首相が死亡した。同じ頃、元宅配ドライバーの青柳は、旧友に「大きな謀略に巻き込まれているから逃げろ」と促される。折しも現れた警官は、あっさりと拳銃を発砲した。どうやら、首相暗殺犯の濡れ衣を着せられているようだ。この巨大な陰謀から、果たして逃げ切ることはできるのか?

ネタバレ

ここからネタバレしてきますので未読の方はご留意ください。

登場人物

作品の主な登場人物です。

・青柳雅春

金田首相暗殺の罪を着せられた張本人。

マスコミを通じて濡れ衣を訴えようとするが、それも叶わぬことと悟ったため、青柳雅春の顔を捨てて整形して生きていくことを決意した。

・樋口晴子

青柳の昔の恋人。

テレビで青柳が首相暗殺の犯人と報道されているのを見るが、青柳は犯人ではないと確信し陰ながら青柳の逃亡をサポートする。

・森田森吾

青柳の大学時代の友人。

家族を人質に取られて青柳を陥れるための片棒をかつがされそうになるが、実行直前で昔と変わらない青柳を見て思いとどまる。

青柳に逃げるように助言するが家族を人質に取られている自分は逃げられないと考えて車に仕掛けられた爆弾で死亡する。

名前に森の字が二つ入っていることから森の声が聞こえると学生時代によく言っていた。

・小野一夫

青柳と森田、そして樋口晴子のサークルの後輩。

青柳を追う警察から暴行を受けるが森田とは違い命は助かる。

・金田貞義

作中内での日本の首相。

国民のために行動できる信念を持った政治家と評されているがパレード中に暗殺されてしまう。

・保土ヶ谷康志

青柳が逃亡中に出会った怪しい老人。

青柳を犯人ではないと考えて逃亡の手助けをする。

・キルオ

連続殺人犯。本名は三浦。

逃走中の青柳と偶然出会い青柳の逃亡を手助けする。

最終的には青柳を追っていた警察の一人と格闘になり相手を刺殺するが自らも拳銃で撃たれてしまい死亡する。

青柳雅春の逃亡経路

事件発生からラストシーンまでの青柳雅春の逃亡経路一覧です。

<1日目>

・首相暗殺事件発生

・森田の助言で車から降りて逃げるが警察に追われる。

・停車しているタクシーに逃げ込み逃走。

・渋滞でタクシーが動かないため歩いて自宅のマンションに帰るが警察に見つかり再び逃走

・配達ドライバー時代にいつ訪ねても留守だった稲井さんの家に潜伏する。

・携帯電話の電波で稲井さんの家に潜伏していることが警察にバレる。再度逃走する。

・偶然街で出会った女性と立ち話をする。そしてその女性を迎えに来た彼氏の車になりゆきで乗せてもらうことになる。

・カズの家を訪ねる。

・カズの家に彼女が来るというので一時的に近くのファミレスで待機する。

・事情を知らないカズが警察に青柳のことを伝えたため、ファミレスにも警察が来る。再び逃走する。

・インターネットカフェに逃げ込む。そして宅急便の荷物に紛れて仙台市から逃げ出す作戦を立てる。
そのために配達員時代の先輩である岩崎の配達区域に集荷依頼を出す。
しかし集荷依頼は翌朝9時が最短。現在18時。

・カズからの留守電メッセージを公衆電話から聞く。カズが警察に拘束されていることを知りカズのマンションにカズを助けに行くことを決意する。

・ICレコーダーを購入し自分の声を録音する。
そして自分の携帯を他の男に渡してその男から警察に電話をかけさせる。
会話はICレコーダーで録音した声を再生させる。
こうしてわざと自分の居所を特定させて警察をおびき出す。

・警察がカズの部屋から出て行ったのを見計らって捕らわれているカズを助け出すことに成功するが、戻ってきた警察に捕まってしまう。

・車に乗せられて東京に連行されそうになるが、突然乱入した連続殺人犯キルオが場をかき回したことによって逃げ出すことに成功する。

・キルオの潜伏するアパートに成り行きで一時的にかくまわれることになる。
事情を聞いたキルオが青柳にゆっくり寝てもらうためにラーメンに睡眠薬を入れたため青柳は眠りにつく。
キルオはアパートを出ていく。

またキルオから連絡用として携帯電話を譲り受ける。
青柳は携帯をカズ救出作戦で失っていたので以後はこの携帯を使用する。

<2日目>

・朝の8時に目を覚ます。

・9時。昨日依頼した集荷依頼の場所に向かう。集荷に来た配達員時代の先輩の岩崎と再会する。
岩崎は青柳の無実を信じているので青柳を仙台市内から逃がすことを約束する。

・集荷依頼場所で偶然出会ったビルの社長が怪しんで通報したため岩崎に会社を通じて警察から連絡が来る。
岩崎は地下鉄駅前で青柳を引き渡すように要求される。
岩崎は要求を呑むふりをして青柳に自分を人質にして逃げる作戦を提案する。
青柳は岩崎の提案通り岩崎を人質にすることで再度逃亡に成功する。

・青柳は樋口晴子と交際していた時に河原に壊れた車があり、その車を雨宿り利用したことを思い出す。
わらにもすがる思いで車に乗り鍵を回すが車はやはり動かないままだった。
がっかりした青柳は車のダッシュボードにあるメモ用紙に「俺は犯人じゃない 青柳雅春」と書き残して車から離れていく。

・キルオから電話が入り、さっきまで青柳がいた車のバッテリーを女の人が交換していたので今ならきっと動くと言われる。
青柳が車に鍵を回すとキルオの言う通り車は動いた。
バッテリーを代えたのは樋口晴子。青柳がこの車を思い出すわずかな確率を考えて車のバッテリーを代えておいたのだ。
また青柳の「俺は犯人じゃない 青柳雅春」のメモを見て「だと思った。」と樋口晴子もメモを残した。
青柳はそのメモを見て救われた気持ちになる。

・青柳は車に乗ってショッピングモールの駐車場に滞在する。
トイレに行って車に戻る途中で若者たちと接触する。若者たちは犯人と報道されているはずの青柳を無実と信じて味方をする。
そして青柳が逃走しやすいように自分たちの服と青柳の服を交換してくれる。

・キルオから電話が入り青柳のニセモノの潜伏場所がわかったと連絡が入る。

・キルオが指定した病院に向かう。
しかしキルオが掴んだ情報はデマでそこには青柳をとらえるための警察(おそらく)が一人いただけだった。
キルオは青柳が到着する前にその警察を刺殺していたが、同時に拳銃で撃たれており遅れて到着した青柳と会話をしている最中に亡くなる。

・病院から逃げ出そうとするところを警備員に見つかり追われる。
そこを入院中の保土ヶ谷康志に助けてもらうことで何とかやり過ごす。
そして下水管を通って移動する方法を教わる。

・昨日滞在した稲井さんの家は警察の盲点になっていると考えて再度向かう。
そこには児島という警官が一人いたが不意をついて倒して縛り上げることに成功する。

・青柳と接した児島は青柳が犯人ではないと感じるようになる。

・テレビ局に電話をし明日の早朝にみんなの前に現れる約束をする。
そしてそこで無実を主張するのでそれを放送してほしいと依頼する。
テレビ局はその依頼を引き受ける。

・青柳は保土ヶ谷に電話をし下水管を使った移動方法について詳しく聞く。
明日のみんなの前に現れるのに下水管の移動経路を使うことを考えたためだ。
保土ヶ谷はカズの見舞いに来ていて偶然病院で出会った樋口晴子と一緒に青柳が逃走しやすいようにマンホールのふたを軽い模造品に取り換える下準備をする。

<3日目>

・青柳は地下水路を通りテレビ局と警察に指定した場所に現れる。
当初の予定通り無実を訴えようとするが電波が遮断されてしまい実行できなくなる。

・逃げるしかなくなった青柳。
保土ヶ谷たちの作戦で花火を打ち上げてみんなが気を取られている隙に再度マンホールの中に逃げこみ逃走する。

・凄腕の医師の整形手術を受けて別人として生きていくことを決意する。

Q&A

ここではQ&A方式で事件の謎を解説していきます。

Q1

「第三部 事件から二十年後」を書いているノンフィクションライターは誰か?

A1

明記されていないが青柳雅春本人と推測できる記載がある。

筆者は昔、若者たちが、「世の中の悪いこと全部が、自分たちのせいにされる。アメリカみたいだ」と嘆いていたのを聞いたことがあるが、まさにアメリカとはそういう宿命にあるのかもしれない。
P82

この若者の発言というのは青柳が逃走中にショッピングモールで出会った若者の発言なので筆者は青柳と推測できる。

筆者は現実にこの調査原稿を書く前に、森の中にある霊園に足を運び、手を合わせてきた。もちろん答えは得られず、そこでは森の声も聞こえなかった。
P97

上記の「森の声」というのは青柳の親友の今は亡き森田の声を示唆していると考えられる。
「森の声」を聞きたいのは当然森田と親しい人物であるはずだから、その点からも筆者は青柳と推測できる。

Q2

キルオに部屋を貸していた親子は無事であったのか?

A2

無事であった。

連続殺人犯キルオは自らの潜伏場所を確保するために、ある親子に多額の金銭を渡すことで部屋を出て行ってもらい、その部屋を自らの潜伏場所としていた。

青柳も逃走中にその部屋にかくまってもらっていた。

青柳はキルオが嘘をついておりその部屋の本来の住人を殺害したと考えていたが、事件から3ヶ月後に青柳がこの部屋を訪れるとちゃんと住人がいたためキルオは本当に金銭を渡すことで部屋を借りていたことが明らかになった。

キルオは連続殺人犯ではあるが無差別に殺すわけではなく何らかの方針があったのかもしれない。

Q3

なぜ樋口春子はラストシーンで青柳に気が付いたのか?

A3

ラストシーンの話。

事件から3ヶ月後にとあるビルのエレベーターで青柳と樋口晴子の家族は偶然乗り合わせる。

樋口晴子は整形手術をした青柳に気が付き、娘の七美に「たいへんよくできました」のスタンプを青柳の手の甲に押させる。

樋口晴子が整形した青柳に気が付いた理由はエレベーターのボタンを押すときに青柳が親指でボタンを押したから。

エレベーターのボタンを親指で押すのは青柳のクセとして晴子も含めて昔の仲間の森田とカズも知っていた。

正直この程度で顔が変わっている相手を青柳と認識出来るのは無理がある気もするが、そんなことはどうでもよくなるくらい「たいへんよくできました」のラストである。

Q4

結局本当の金田首相暗殺の犯人は誰だったのか?

A4

作中で明記はされていないが、20年後の青柳が書いた調査報告書によると最も有力とされている説は金田首相の側近とされていた海老沢の仕業というものである。

海老沢はかねてより首相の座を狙っていてようやく最大のチャンスが訪れたが、若い金田首相に首相の座をかっさらわれたため自分のプライドを守るために暗殺したと考えられている。

Q5

実際に犯人ではい青柳雅春の目撃証言が数多くあるのはなぜか?

A5

整形により青柳にそっくりの顔にされた男が各地で目撃されるように出現したから。

なおこのそっくりさんは本物の青柳の行方がわからなくなったため、本物の代わりに青柳として始末されてしまっている。

Q6

実際にラジコンヘリを操作して金田首相暗殺を行った実行犯は誰か?

A6

事件の黒幕は海老沢と考えられているが、実際にラジコンヘリを操縦して金田首相を爆死させたのはラジコンヘリショップの店主落合勇蔵と考えられている。

なお落合は事件から半年後交通事故死しているが、恐らく単なる事故ではなく黒幕たちの仕業と考えられる。

Q7

青柳とハローワークで出会った井ノ原小梅の正体は?

A7

青柳とハローワークで出会いラジコンヘリの購入を勧めた井ノ原小梅も青柳を陥れる側の人間と考えられる。

20年後の青柳の調査報告書にて事件から2年後に崖から落ちて亡くなっていると書かれており、事件にかかわったことから黒幕たちに消されたものと考えられる。

Q8

最後の「たいへんよくできました」のスタンプの意味は?

A8

樋口晴子は青柳と別れる際にこのまま付き合っていても私たちは「よくできました」止まりな気がするといって別れた。

しかし無実の罪を着せられながらも決してあきらめずに顔を変えてまで逃げ切った青柳を見た晴子は「よくできました」を超えていると考えて「たいへんよくできました」とほめたくなったから。

感想

本当に好きな1冊。

管理人としては伊坂作品の中ではナンバー1です。

最後の「たいへんよくできました」の終わりも好きだし、あれだけ犯人と報道された青柳なのに直接会った人達は青柳は犯人ではないと考えて手助けするのもいい。

青柳を手助けするのは本人に会えばこいつは犯人ではないとわかっちゃう何かが青柳にはあるんでしょうね、きっと。

小説はだいたい一度読むと満足するのですが、本作は定期的に読み返したくなる数少ない作品です。

未読の方はぜひ読んでみて下さいね。